●*: sweet time :*

「ま、まだですかなぁ〜ん……?」
 どきどき、そわそわ。
 女神の木の前で、メニィはロウエンを待っていた。
「あ……!」
 そこに駆けて来る人影が1つ。
 それこそ待っていたロウエンだと、メニィはすぐ気付いた。
「ロウエンちゃん、とってもカッコイイなぁ〜んっ」
「そ、そうか? でも、俺より……メニィの方が、似合ってる、ぞ?」
 いつもとは少し違う服装のロウエンに、どきっとしながらも笑うメニィ。
 その言葉に、ロウエンもまた、照れ臭そうにはにかみながら笑う。

 ……こうして、付き合うようになって、初めてのイベント。
 そのせいなのか、2人共ドキドキと胸が高鳴るのを感じる。

「そ、それでなぁ〜ん……」
 お菓子を取り出そうとしたメニィは、不意にその手を止めて、ロウエンを見上げた。
 もっともっと、一緒にいる時間を少しでも長くしたいから……。
 だから、お菓子を渡すタイミングを先延ばししたくて、メニィは他愛の無い話題を持ちかける。
(「メニィ……?」)
 その態度に、ロウエンは内心穏やかではない。
 来たらすぐ彼女のお菓子が貰えると思っていたのに……。
(「もしかしたら、本当は俺のことなんて……?」)
 悪い予感が浮かびそうになるのを隠して、明るく振舞おうとするロウエン。でも、やがてそれでも隠せないほど、焦りと不安は募っていく。
「ロウエンちゃん……?」
 その様子に怪訝にしながら、メニィはお菓子へ手を伸ばす。
 少しでもと思ったが、メニィの方もそろそろ我慢の限界なのだ。
「ロウエンちゃん、これ……ごめんなぁ〜ん。……わたしぃ、ずぅっと一緒に居たくて……わざとお菓子、渡さずに居たなぁ〜ん……」
 しゅんとなるメニィだが、その言葉にロウエンは首を振って笑みを返した。
 ようやく理由が分かり、今までロウエンの胸にあった不安が、嘘みたいに消える。
「……ありがとう、な」
 心の底から微笑みながら、ロウエンはそう手を伸ばし……メニィの前髪をかき上げると、彼女の額に口づけた。
「!?」
 突然の出来事に、メニィは顔を真っ赤にして固まる。
 その、力の抜けた掌からは、ぱらぱらクッキーが落ちて……。
「あっ」
 慌ててロウエンはそれを拾うと、一口食べて「美味しいな」と笑う。
「ろ、ロウエンちゃん……」
 その間に我に返ったメニィは、ロウエンの袖をきゅっと掴むと、はにかみながら見上げ。
「……ロウエンちゃん、大好きなぁ〜ん」
「俺もだ、メニィ」
 そんなメニィを、ロウエンは愛しげに抱きしめた。


イラスト:千秋薫