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お家にかえろう
ジーナスは早起きして、準備を整えていた。
「普段はお菓子作りなんてしないんですけど」
大切な夫、レイクスに贈る為のチョコレートのプレゼントもしっかり持って。
「でも、彼には内緒です」
くすりと微笑み、プレゼントを鞄の中に入れた。
実はこのチョコの中に、一つだけわさび入りが入っているのだが……それが分かるのは、もう少し後の事。
「ジーナスさん、準備できましたかー?」
玄関から、レイクスの声が響く。
「今行きまーす!」
鞄を手に、ジーナスはレイクスの待つ玄関へと駆けて行った。
さえずりの泉を歩き回った二人。
途中、休憩がてら、ジーナスの作ったチョコレートを食べて、見事わさび入りを当てたのは、ここだけの話。なにより、ジーナスを喜ばせたのは、レイクスがチョコレートを美味しいと喜ぶ姿であった。
賑やかなひと時、楽しい時間はすぐに終わりを告げる。
「ご、ごめんなさい、レイクスさん……」
気が付けば、ジーナスの顔色が優れない。どうやら、人込みに酔ってしまったようだ。
「大丈夫ですか?」
心配そうに声をかけるレイクスにジーナスは微笑む。その微笑みも、少し辛そうに見えた。
「それじゃ、帰りましょうか」
少し早いが、一緒に手を取り合って。
ゆっくりゆっくりと丘を降りていく。
こつん。
「ジーナスさん?」
「あ、ご、ごめんなさい……」
ジーナスの頭がレイクスの背中にぶつかった。
どうやら、相当お疲れの様子。レイクスは少ししゃがんで、ジーナスを見る。
「無理してはダメですよ。さあ、わたくしに掴まってください」
「はい……」
言われるままにジーナスはレイクスの背に体を預ける。
背負われるジーナス。レイクスの背中の暖かい温もりが、心地よい。
「レイクスさん……ありがとうです……」
ジーナスはそう感謝を述べた。
「わたくしはこうして、一緒に帰れるのがとても嬉しいんですよ?」
そうレイクスも言ったのだが、どうやらジーナスはもう寝てしまったらしい。
レイクスは微笑み、そのまま家へと向かう。
二人の住む、幸せな家へと……。
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イラスト:水野御魚
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