● 不器用な2人の優しい愛情

 ランララ聖花祭の日、マナブとカインは女神の木で待ち合わせていた。
 義理の兄妹という関係から恋人同士になって、まだ間もない2人にとって、今日は初デートの日。
 とても嬉しい日のはず……なのに、カインの顔は、何故か浮かばない。
(「やはり、私はいつまでも『妹』としか見て貰えないのだろうか……」)
 胸を占めているのはマナブのこと。
 恋人同士になったというのに、彼の行動には、まだ自分を妹扱いするものが多い、ように感じる。
 それはカインにとって、間違いなく心苦しく……そして、とても切ない事実。
(「1人の女として、自分を見て欲しいのに」)
 その想いが強くなればなるほど、更に心は苦しくなって……だから。
 カインは思いきって、口を開いた。

「マナブ、私は……こうして、デート出来る事が嬉しい。だけどマナブは、まだ私を妹として見ている気がするんだ。それが不安で……出来たら、私を恋人として、見てほしい……」
「カイン……」
 寂しげな顔に、不安を色濃くあらわしながら、そう見つめるカイン。
 彼女の姿に、マナブもまた苦しげになる。カインが時折見せる寂しげな表情。その原因が、未だ彼女を妹として扱ってしまっている事だと気付いたから。
 でも……。
(「違うんだ。カインを愛し過ぎて、傷付けてしまう事が怖いから……」)
 それは決して、彼女を1人の女性として見ていないからではない。ただ、それを恐れていた、それだけなのだ。
 だからマナブは首を振りながら、彼女の瞳を真摯に見つめ、答える。
「俺はお前の事を、ちゃんと恋人として見ている。俺としては、お前に深く入り込み、傷付けたくなかったから、なんだけどな……でも、お前を不安にさせる態度をとってしまったのも事実。すまん、な」
 マナブの言葉に、カインの不安が少しだけ溶ける。でも、尚もまだ硬い表情の彼女の姿に、マナブは小さく呟いた。
「そうだな……態度で示してみるのも、ありかもしれん……」
 言葉と同時に、マナブはカインを背後から抱きしめる。
 優しく、でも強く。
 とてもとても大切な、宝物に触れている事が伝わるように。
「マナブ……」
 最初は驚いたカインも、その温もりと力強さを感じ取ると、そっと彼の腕に、自分の掌を重ねた。


イラスト:あそう葉月