● ぷ、プレゼントってひょっとして……?

 ランララ聖花祭の1日を存分に楽しんだシンイチロウとアルシアは、帰路の途中、星屑の丘に差し掛かっていた。
「今日は楽しかったね、ししょ……あ、アルシア」
 隣のアルシアに笑いかけようとしてハッとすると、そう言い直すシンイチロウ。
 元々、彼女の事を家事や料理の『ししょー』と慕っていたシンイチロウは、こうして恋人同士になった今でも、その時の癖が抜けきっていないのだ。
「そぉですね〜。楽しかったですよ〜♪」
 でも、そんな事は気にしていないのか、アルシアは何も無かったかのようなニコニコ笑顔で、そうシンイチロウに頷き返す。
 二人は他愛の無い話題に花を咲かせながら、星屑の丘をゆっくり通り過ぎていく。

「……あ、そぉいえばシンちゃん。帰ったら、ここで渡せなかったプレゼントがあるんですけど……」
 そんな中、不意に思い出したようにアルシアは口にすると、帰ったら受け取ってくれますか? と問いかけた。
(「ここでは渡せないようなプレゼント……?」)
 何だろう、とシンイチロウは思う。
 堂々と渡せないような物なのだろうか。という事は、人目を憚るようなプレゼント?
 つまり、ひょ、ひょっとして……!
(「それって、『私がプレゼント♪』って奴……!?」)
 まさかまさかの想像に、シンイチロウの脳裏に何かが浮かぶ。
(「う、嬉しいけどどうしよう……いやもちろん欲しいよ、欲しいけどさ。その、どう答えたら……!?」)
 ぷしゅー……。
 シンイチロウは真っ赤になると、よく分からない煙を噴き出した。
「……う、うん。嬉しいよ……」
「ふふふ、それは良かった。ちゃんと責任持って貰って下さいね〜」
 とにかくアルシアに返事を、とシンイチロウが頷き返すと、そう笑いかけるアルシア。
「う、うん」
 彼女のそんな表情に、シンイチロウは更に妄想を広げつつ、首を上下させた。

(「大きく作り過ぎちゃったせいで、ケーキ持って来れなかったですけど……シンちゃんもまだまだ元気そうですし、この調子ならちゃんと食べて貰えそうですね〜♪」)
 実は、アルシアからの『プレゼント』の正体が、巨大ケーキだなんて全然想像もしないまま、真っ赤になって歩くシンイチロウ。
 その隣で、巨大ケーキを美味しそうに食べる彼の姿を想像して、どこか楽しそうな様子のアルシア。
 そんな、微妙なすれ違いにどちらも気付かないまま、二人は家まで歩き続けるのだった。


イラスト:木ノ碕由貴