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不遂一夜
2月14日、ランララ聖花祭の夜。
ルシュドは星屑の丘へと向かう道を歩いていた。
目的は、たった1つ。
星屑の丘まで来て欲しいと呼び出したガイに、きちんとこの想いを告げること。
今日こそは、そのつもりで。
……いたのに。
(「覚悟は決めたはずなのに……」)
丘へ向かう足が止まる。
決断が揺れる。
それは、もう既に結果が見えているからか。いや、結果が覆る事を求めている訳ではない。
付き合うためでなく、想いを伝えて、この気持ちに踏ん切りをつけるため。
だからこそ覚悟を決めたというのに……今の関係が壊れてしまう事が、怖くて。
躊躇してしまうのだ。
だが、それでも。
(「行かないと……!」)
勇気を出して、再び一歩を踏み出せば、後は自然に足が進んだ。
「ガイさん」
「お、ルシュド。遅かったな」
丘の上に立つ背中を見間違えるはずが無かった。
ルシュドの呼びかけに振り返る彼の顔に、決めたはずの心が再び鈍る。
「……これ、持って来たよ」
第一声で切り出せなかったルシュドは、そう下げていた麻袋を掲げた。
中には、敷物とお酒、それから……手作りのお菓子。
それらを広げて、二人一緒に肩を並べて乾杯する。
満天の夜空に向かって。
「綺麗な星ですね」
「確かにな。これほどの星は、他じゃなかなか見られないだろう」
くい、と杯を傾けながら空を見上げれば、感心した様子でガイも頷く。
そんな彼の横顔を見つめながら、ルシュドはチョコレートに手を伸ばした。
かりっ、と一口食べたその味は……とても気合を込めて作ったはずなのに、味見の時とても美味しかったはずなのに、でも、どこか不味く感じてしまう。
(「………」)
その理由は、きっと……。
けれども、やはり想いを口にする事は出来なくて。
せめて、何か。そう、手だけでも繋げたらと思うけれど、指一本動かない。
それは冬の夜の寒さのせいなのか、それとも……怯えのせいなのか……。
「ルシュドの菓子は酒にも合うな。特に、このマフィンなんて絶品だ」
涙が溢れそうになるのを堪えるルシュドへ向けられる、ガイの屈託の無い、豪快な笑顔。
いつもと何も変わらない、ルシュドが好きになった彼の笑顔は、今のこの状況で、ほんの少しだけ救いになる。
(「……しばらくは。あともう少しだけ、このままでも……」)
結局、想いを告げる事は出来なかったが、それでもいいかと、ルシュドは思う。
この事がいつか、自分自身を傷付ける事になっても……。
今はもう少し、このままの関係で、一緒にいたいから。
ルシュドはガイに笑い返すと、彼に注いで貰った酒を、美味そうにあおった。
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イラスト:松宗ヨウ
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