● ……全く、もう少し踏み込んで来なさいよ!

 沢山の草花が迎える朝露の花園。
 そこにラオコーンとラビリスは来ていた。
 二人はいつものようにいつもの漫才を交わしている。
 一つ違うといえば。
 ラオコーンが少し緊張気味なところだろうか。
「ったく、何情けない顔してるのよ。あんたは馬鹿らしいのが売りなんだから、いつもみたいに馬鹿やってるのが似合ってるわよ。珍しく頭なんか使ってるから変に緊張してるんじゃないの?」
 ラビリスの言う通り、つい先ほどまで花言葉の話をしていた。恐らく付け焼刃的に、一日くらいかけて覚えたのだろう。果たして、翌日になっても覚えいているかどうか……。
「おう、では細かい事は考えずに言いたい事を言うかな」
「?」
 首を傾げるラビリスにラオコーンは告げる。
「ラビりん、好きだ」
 そう言って、照れるラオコーンにラビリスはいつもの厳しい口調で突っ込む。
「そ、それは約束の木の下で聞いたわよ。何よ又……」
 言う事ないでしょ? そう言うつもりだったのだが。
「ああ、それでな。聞きたい事があったんだな、今回。ラビりんは素直に忌憚の無い意見を言って欲しい」
 逆に訊ねられて面食らってしまう。
「……な、何よ?」
 思いがけない質問にラビリスは戸惑いを隠しきれない。
「うむ、ラビりんは俺の事をどう思ってる? それを聞いておきたい。遠慮なく言ってくれ。どんな答えが返っても俺の気持ちは揺らがんが……でも、一度聞いておきたいのだ」
 緊張させながら、ラオコーンは真剣な眼差しをラビリスに向けていた。
「どうって……別に嫌ってまではないわよ、馬鹿だとは思ってるけど……」
 ラビリスは思っていた事をそのままラオコーンに言った。
「そうか、うむ! まだまだだが、まずまずな答えだな! 努力のし甲斐があるってぇもんだ」
 そのラオコーンの言葉にラビリスは思わず突っ込んだ。
(「……だから、何でそこでもっと突っ込まないのよ……!」)
 ラビリスの言葉に喜ぶラオコーンの裏で、ラビリスは少しの落胆と怒り……そう、ラビリスの気持ちを引き出しきれないラオコーンに腹を立てていたのだ。
「……ん? なんか俺様、変なことしたか?」
 ラビリスのご機嫌斜めを感じたラオコーン。だが時既に遅し。
「何でもないっ! ほら、さっさと帰るわよ!」
 ぷいっと後ろを向き、そそくさと帰り道を歩いていく。少し足早に。
「お、おぅ!! 待ってくれぃ!!」
 ラオコーンは慌ててラビリスの後を追った。
 とても幸せそうな笑顔で……。

 果たして、この二人の恋の行方はいかに!?
 それを知っているのは、ラビリスの頭に揺れる赤い薔薇のみぞ知る……のかもしれない。


イラスト:アシハラ