● 冬の日溜りの中で

「サヤさん、どこですかにゃー?」
 さえずりの泉で、ジストはきょろきょろ辺りを見回した。
 探している相手はたった一人。恋人のサヤだけだ。
「あ、ジストさん! こっちですよー」
 そんな彼を、サヤの方が先に見つけた。ジストが振り返ると、大きく手を振っているサヤが見える。
「無事に合流できて良かったですにゃ〜」
 ほっとしながら彼女の方へ向かうジスト。一方、サヤはその間に、ギフトボックスを取り出して。
「ジストさん、これ……」
 差し出した中身は、勿論お菓子。ジストに贈るため、大切に作ったオレンジ風味のチョコレートだ。プレゼントの品だから、何度も味見を繰り返して、一番ベストな状態にしてある。
「ありがとうにゃ。美味しく頂きますにゃ」
 ジストは、見るからに嬉しそうな様子で顔を綻ばせると、それを両手でしっかり受け取った。

 そのまま2人は移動すると、泉の傍に腰かけた。
 空には、大きな太陽が顔を出していて、降り注ぐ陽射しがぽかぽかと2人を包み込んでいる。
「暖かくて気持ちいいですにゃー」
 思わずそう目を細めるジストに、サヤはくすりと笑って。今朝は何を食べましたか? なんて問いかける。
 今日はランララ聖花祭。特別な日ではあるけれど……2人にとっては、何も特別な事など無い。
 こうして、いつものように一緒に過ごして、いつものような会話を交わす。
 それこそが大切だと、ジストもサヤも、2人ともそう思っていた。

「みゃぅ……お日様に当たってたら、だんだん眠くなってきたにゃ……」
 かくん、こくん。
 やがてジストの頭が揺れて、その瞼がゆらゆらと落ち始める。
 そして、次の瞬間、あっという間に瞼が閉ざされると、ジストの口元から寝息が漏れる。
「ふふ、ジストさんったら……」
 そんな彼の姿に、くすくすと笑みをこぼし、サヤはそっと彼の体を倒す。
 起こさないように、静かに、静かに。注意しながらジストを膝枕してあげる。
「……さん、だいす……にゃぁ……」
 すー、すーとジストの立てる寝息の合間に、聞こえて来る寝言。
 聞き漏らしてしまいそうなほど小さな言葉を、サヤはハッキリと耳にして……思わず笑顔になる。
「ジストさん。私も、大好きですよ」
 彼の気持ち良さそうな寝顔を見ながら、サヤはそう呟くと、そっと、その髪を撫ぜるのだった。


イラスト:かりん