● バレンタインデー★キッス

 ランララ聖花祭、前夜。
「…………ムニャムニャ」
 誰かの声で目覚めたのはオージ。
「ん……シーザス?」
 目を擦り、シーザスを見る。シーザスはとっても幸せそうな笑顔で寝ていた。
 いや、それだけではない。
「もうたべられないよ……」
 そんな風に鼻の下を伸ばして寝ているシーザスを見て、オージはすぐに気づいた。
(「も、もしかしてっ………!!」)
 ちなみにシーザスが見ていた夢はというと。

『きゃーシーザスさん、素敵!』
『私のチョコ、受け取ってください!』
 と、素敵な美女軍団に囲まれ……。
「ほら、そんなに焦らなくても、俺は逃げも隠れもしないよ」
 うはうはモードに突入! しかし、突然現れた突風がシーザスを襲い……。

「さむっ!!」
 シーザスは少し開いた布団を掻き抱くと、また夢の中へと入っていった。
 隣にいるはずのオージがいないのも気づかずに。

 そして迎えるランララ聖花祭当日。
 女神ランララの木の下で、オージはいた。
「待たせたな、オージ!」
「ううん、僕もさっき来たところだしね」
 そういうオージにシーザスは思わず、ぎゅっと抱きしめたくなる。
 が、周りの目を気にしてか、すぐにふいっと方向転換するシーザス。
「それじゃ、さっさと別のところに……」
「その前に、一つ聞いても良い?」
 オージはぎゅっとシーザスの手を引いた。
「アントワネットとシルヴィーナって誰?」
 ぎくり。それは、夢の中に出てきた美女達の名前であった。
「そ、それはその……………す、すまんっ!! 変な夢見ちまってっ!!」
 シーザスは観念して、言い訳せずに謝った。
「それじゃ、これ、食べてくれる?」
「え?」
 オージが差出たるものは、ちょっと歪なチョコレート。
 何処かで見たようなものがちょこちょこと見える。
 ……チョコ+ナッツ+ウェハース?
 ぴーんと、シーザスの頭にお馴染みのものが浮かんだ。
「こ、これは……ドッキリマンチョコ!?」
 そう、これはシーザスが家計を切迫させてまでも、夢中なって収集しているシール付きチョコ菓子(チョコが大量に余る)をハート型のチョコレートに再生させたものであった。
「その、ホントは普通のチョコレートで作りたかったんだけどね」
 家計がちょっぴり辛いので、余っていたチョコを再利用したのだ。
 ふと、シーザスは昨夜の事を思い出した。少し寒くて布団を被りなおしたあの時。オージは隣にいなかったのではないかと。この季節、彼らのいる家のキッチンは少し寒い。そんな中、得意でない料理の腕で、一生懸命作ったのかと思うと、シーザスの胸はぎゅっと締め付けられる思いであった。
「ありがとうオージ……昨晩は寝ずにチョコを作っていてくれたのか。フフ、ほっぺにチョコがついているぞ」
「え? 嘘っ!?」
 慌てるオージにシーザスはちゅとキス。
 そして、もう一度。今度はしっかりと唇を重ねて。

(「たとえ夢でも沢山の美女から貰った豪華なチョコレート。それよりも、オージの作ったチョコが、こんなに嬉しいとは、な……」)
 馴染み深い味を楽しみながら、シーザスはオージの隣で幸せそうに微笑むのであった。


イラスト:鳥居ふくこ