● ランララ聖花祭2007 〜The Sweetest Afternoon〜

 セルシオとフェアの二人は、バスケットを持って、昼下がりの朝露の花園を訪れていた。
 紅茶とサンドイッチを広げてランチ。
 デザートには、フェアお手製のチョコレートケーキだ。
「ケーキにはお酒を効かせて、ドライフルーツを混ぜて、それから摘みたての野苺で飾ってみたの」
「へぇ……美味しそうだね」
 説明するフェアの言葉に頷いて、早速一口食べると笑みをこぼすセルシオ。そんな彼の様子に、フェアも自然と笑顔になる。
 お酒、果物、甘い物。それは全部彼が好きな物。
 好きな人に好きな物をたくさん楽しんで欲しい……だからケーキを喜んで貰えて、フェアはとても嬉しいのだ。
「たくさん食べてね」

 十分に味わったセルシオは、やがてフォークを置いた。
「フェア、頼みがあるんだ」
「? 何です?」
 小首を傾げるフェアに、膝枕を頼むセルシオ。
 膝枕はオトコの夢だから、なんて真顔で言う彼に、くすくす笑ってフェアが頷くと、その頭が彼女の膝に乗る。
(「……かわいい、ひと」)
 甘えるように見上げて、照れながら微笑む彼の姿に、心の奥がくすぐったくなる。
 半分大人で半分子供。出会ったばかりの頃には想像しなかった彼の姿が、自分だけの特別な横顔に見えて。
 いつまでもいつまでも、この優しい素顔を見せて欲しいと思う。
 ……いつか、移り過ぎていく時間に、自分だけ置き去りにされたとしても。

(「ああ……」)
 なんて幸せなんだろう、とセルシオは思う。
 実の母にも養母にも、膝枕なんてして貰った事は無かったから、本当のところ、ずっと憧れていたのだ。
 くすくす笑う彼女の眼差しが「仕方のない人ね」なんて言っているような気がして、つい気恥ずかしくなってしまうけれど……。
 ……ああ、今ここに、全てがある。
 そう思うと、この上なく幸せな心地に浸れる。
 でも、不意に見上げた彼女の表情が、翳ったように見えて、それがセルシオにも影を落とす。
(「……フェア」)
 その理由は、よく分かっている。
 自分はヒトで、彼女はドリアッド。
 流れ続けていく時間が、いつか二人を隔てる日が来るのだろう。
 それが、少しでも遠いようにと、セルシオは心の底から祈るしかない。

「……寒くない?」
 そっとフェアは語りかける。
 まだ春と呼ぶには早い季節だから、そっと、セルシオの体にケープをかける。
 それは、冬のフォーナのあの日に受け取った贈り物。
(「でも……」)
 あなたがくれるのは、いつも、もっともっと大きな贈り物ね、とフェアは思う。
 それはケープよりも優しく、暖かく自分を包んでくれる温もり。
 今も痛みを察して想ってくれる、そんな貴方が……好きだから。

「膝枕は、どう?」
「うん……いいね」
 翳りを押し退けて笑うフェアを、セルシオも笑顔で見上げた。
 今はただ、このとても幸福な時間を、二人で共に過ごすために……。


イラスト:ぴよ