● 星を眺めて

 そこは静かな丘であった。
 聞こえるのは、時折吹く、肌寒い風の音だけ。

 リューとリュシスは、つい先ほどまでさえずりの泉に来ていた。
「……星が見てみたいんだけど、いいかしら?」
 できればでいいんだけどと、控えめに微笑むリュシスの為に、リューは頷いた。
「それなら、あそこに行こうか」
 リューはそっと手を差し出し、座っていたリュシスを立ち上がらせる。
「星屑の丘へ」

 そして、今。二人は丘の上にいる。
 空には既に満天の星々が輝いていた。
「綺麗ね……」
 夜空に手を伸ばし、リュシスは星を眺めている。

 ここに来る前にリューはリュシスにプレゼントを贈っていた。
 カサブランカの花。
 そして、自分が奏でた美しい旋律を。
 リュシスは、花に喜び、奏でられた音には、好きだと気に入ってくれた様子。

 なのに………なぜ?

 今、星空を眺めるリュシスの瞳に、僅かに宿る憂いのようなものを感じた。
 いや、悲しさ寂しさなのかもしれない。
 それはまだリューには、うかがい知れないものであった。

 できるのなら、それを癒してやりたい。

 リューはそう思う。
 まだ、自分は色々な場所に眠る音を探している最中だから、彼女の心を包んで癒せる、そんな音も同時に探し出す事ができたら、そのときは………。

「リュー?」
 気が付けば、リュシスはリューの目の前にいた。
「あ、ごめん。見とれてた」
 そのリューの言葉にリュシスはくすりと微笑む。

 彼女を癒せる音を見つけられたら、そのときはきっと。
 そう、新たに決意するリュー。

(「たぶん、きっと俺は今、これで幸せというものを感じでいるのかもしれない。セイレーンにしては、まだ俺も色々と甘いな」)
 自嘲気味にリューは笑みを浮かべた。
「この甘さもたまにはいいか」
「あら、何か言ったかしら?」
 そのリュシスの言葉にリューはもう一度微笑んだ。
「いいや、なにも」
 リューはその視線を、ずっとリュシスへと向けていた。
 リュシスに促されて、美しい夜空を見上げるそのときまで……。


イラスト:アシハラ