● 蒼鴉の想  清花の願

 女神ランララの木の下。
 輝くような緑の下で、ソロとマイヤはいた。
 その輝きは、まるで2人を祝福するかのように。
 それもそのはず。今日はそう、ランララ聖花祭なのだから。

 緊張した面持ちで、マイヤは桜色の小箱をそっと、ソロに差し出した。
「ソロ、私の作ったお菓子、受け取ってくれるかしら?」
 マイヤの差し出した小箱を受け取り、ソロは幸せそうに瞳を細める。
「ええ、もちろん。食べるのがもったいないくらいです」
 その言葉にマイヤはくすりと微笑んだ。
「それでも、ちゃんと食べて感想を頂戴ね」
 マイヤの渡した小箱の中にはお菓子と、そして、マイヤの想いがたくさん詰まっている。
 ソロへのたくさんの想い、言葉では言い表せないほどの想いが込められていた。

 と、マイヤの目の前に、美しいモモの花が咲く枝が差し出される。
「君恋いし 盗人来たる 静宵に 愛し君さえ 花に同じく」
 女神の木の下で囁くは、美しき詩。
「これを……私に?」
「喜んでいただけましたか、姫」
「あ……その、何て言ったらいいのかしら……」
 頬を染めながら、嬉しそうに微笑みながら、マイヤは困っている。
「……ありがとう、ソロ」
 もっとたくさんの言葉で伝えられたら良いのにとマイヤは思う。
 けれど、今はそれだけでも充分であった。
「姫に喜んでいただけただけで、光栄です」
 マイヤは枝を受け取り、ふと気づいた。
「そういえば……これも見ていいのかしら?」
 枝には一枚の羊皮紙が括り付けられていたのだ。
「ええ、どうぞ」
 促されるまま、マイヤはそれを解き、中を読んだ。

『穏やかに 笑む君の手に モモは早咲く』

「その通りね……」
 羊皮紙にあった句を読んで、マイヤは微笑む。
 嬉しくて嬉しくて仕方ない。この嬉しさをどうやって伝えればいいだろう。
 いや、今日という日は始まったばかり。
 これから、いくらだって、伝えられる事だろう。
 だけど、今は。
「ソロ、本当にありがとう。……とても……とても嬉しいわ」
「こちらこそ、素晴らしい贈り物をありがとうございます」
 そういって、互いに微笑みあった。

 その昔。
 かつて愛し姫へ想いを伝えられなかった男が、花の枝を手折り、送る際に一句添えたのだという。
 ソロは何処かの本で得たという、その話を思い出し、それをマイヤの贈り物とした。
 ソロが狙うは、美しき姫の持つ、高価な宝石でも資産でもない。
(「君の心を手に入れたい。否、もっと手に入れたい」)
「さて、行きましょうか」
 差し出されたソロの手にマイヤの手が重なる。
「ええ、今度は星屑の丘へ」
 マイヤも女神に願う。
(「想い変わる事なく、傍に居られますように。あたしが女神様に祈る、一つだけの願い事」)


イラスト:ミヨシハルナ