● 愛しき者の温もりを感じて…

 ゆっくりと歩きながら、二人はさえずりの泉に到着した。
 僅かに冷たい風が、フォミリンスとレイスの横を過ぎていく。
「先程まで色々あって、顔が熱いので丁度いい涼しさです」
 フォミリンスは弾んだ声でそう、レイスに告げた。
 つい先ほど、女神の木の下で、何度かキスを交わした二人。
 そんなことをまた思い出して、フォミリンスの頬はまた火照りだした。
 早く冷めてくれればいいのに。
 そうフォミリンスは願う。
 風は涼しく冷たいが、そうすぐには冷えてくれないもの。
 それに、思い出したキスは、また彼女の頬を熱くさせる。
 頬だけでなく、鼓動も早くなりそうだ。
 早く収まって欲しいと願いながら、フォミリンスは胸を押さえる。
 火照った頬に、心地よい風が、また吹きぬけた。
「んーそうだなー。でも寒くなったら言えよ? いつでも俺のコート貸すから」
 そう気遣うのは、隣に居るレイス。フォミリンスに優しげな笑みを向けている。
 けれど、その言葉にフォミリンスは、不満な声を上げた。
「ぇ……一緒に入ってくれないんですか?」
 照れながら見上げてくるフォミリンスの表情に、一瞬どきりとしながらも、レイスは答える。
「ぇ? ああ、もちろんいいよ」
「よかった」
 そういってフォミリンスは安心したように、また微笑んだ。

 少しでも触れたい。
 そんなレイスの気持ちを読んだのだろうか?
 それは本人しか知らない事。
 でも、フォミリンスが望むのなら、自分はずっとそばにいる。
 ずっと、ずっとフォミリンスに触れていたいと……。

 しばらくした後、フォミリンスは少し震えて、両腕を擦った。
「ちょっと肌寒くなってきましたね」
 呟くようなフォミリンスの言葉に、レイスは自分のコートを広げて、ちょいちょいと手招きする。
「おいで」
 それに気づいたフォミリンスは、言われるままに彼のコートの中に入っていった。
 レイスは後ろからフォミリンスを抱きしめ、照れながらも優しく微笑を浮かべる。
「あったかいですね」
 フォミリンスも照れながらも微笑を浮かべた。

 互いにとって、大切な者のぬくもり。
 暖かい温もりを感じながら、二人はゆっくりと、ランララ聖花祭を楽しむのであった。


イラスト:ひうが