● 星屑の円舞曲

 試練を越えて、無事に女神の木の下で出会えた二人は、そのまま星屑の丘へと移動してきた。
 この丘からは麓に広がる街を一望できて……その景色は、とても素晴らしいものだった。
「晴れて良かったですねぇ」
 頭上に広がる雲ひとつない青空と、麓の街を眺めながら、そうリツはしみじみと呟いた。
 もし雨が降っていたら、こんな景色なんて見れなかっただろうから……。
「そうですねっ! きっと、女神様がお天気にしてくれたのですよっ」
 こくこく頷いてみせたルーヤは、そう適当な場所に腰を下ろす。そう考えたらちょっぴり素敵でしょ、と笑うルーヤに、リツは優しげに微笑みながら頷いた。

 そのまま、他愛のない話を楽しみながら、二人は星屑の丘での時間を楽しむ。
 ゆったりと過ぎているようで、でも楽しい時間はあっという間に過ぎて……次第に空が茜色に染まり、やがて、辺りに夜の帳が下りていく。
「綺麗な月ですねっ」
「でも、ルクの方が綺麗ですよ」
「も、もうっ、リツさんったら……!」
 空に浮かんだ満月を見上げてルーヤが呟けば、そう真顔でリツが告げて。恥ずかしさを誤魔化すように立ち上がると、ルーヤは「なんだか踊りたくなっちゃう夜ですねっ!」なんて言い出す。
「というわけで踊りましょう!」
 全然筋は通っていないが、彼女の中ではそれで問題ないらしい。
 そんなルーヤの様子を、リツは微笑ましく思いながら、彼女の手を取った。
「こんな感じでしょうか?」
「そうそうっ。くるくる〜って」
 ダンスのようなステップを踏み始めたリツに合わせつつ、その場でくるりと回るルーヤ。
 二人は月明かりの下、くるくる、くるくると即興のダンスを楽しむ。
 ダンス、と呼ぶには滅茶苦茶かもしれないし、作法も全然なっていないかもしれない。
 でも、こうして二人で過ごすのは、とても幸せな事だから……だから、別に構わないのだ。
 ……それに今は、誰か他の人が、見ている訳ではないのだから。

「ねね、リツさん、ほ〜らっ」
「そんなルゥさんこそ、足元には気を付けて下さいね?」
 お互いがいれば、それだけで幸せになれる。
 そんな、ささやかで、でもとても当たり前な事を噛み締めて、二人は楽しげに踊り続けるのだった。


イラスト:梅田ユキオ