● ランララ聖花祭〜女神の木の前で〜

「ふう、やっと試練を突破できたか」
 フィオは額の汗を拭いながら、待ち合わせの場所へと向かった。
 数多くの恋人達が集まる場所、女神ランララの木の下である。
「フィオ殿〜!」
 と、フィオはお目当ての彼女を見つけた。
 ヒイラギ……フィオにとって大切な存在。フォーナでも祝福を受けている。
「悪い、待たせたか?」
「いやいや、某もさきほど付いたばかりでござるよ」
 にこっとヒイラギは答える。
「あ、場所を移動する前に、これを奉納せんとな」
「そうだな」
 二人は揃って、女神ランララの木の下の奉納場所に行き、お菓子を奉納した。
 とはいっても、奉納したのはヒイラギのみであるが。
「これは、フィオ殿に」
「お、サンキュー……………………え?」
 ヒイラギが手渡したお菓子。
 それは、かなり前衛的な形のトリュフチョコレートであった。
 その形で、なかなか袋から取り出して、食べる勇気が出ない。
「あーその……」
 不安そうなフィオにヒイラギは。
「形が気になるなら……」
 ひょいっとそのチョコレートを一つ摘んで、口に含んだ。
「ヒイラ………」
 フィオの言葉が、ヒイラギの唇に阻まれた。
 変わりにチョコレートの甘さが、口の中に広がっていく。
 と、ヒイラギが離れた。
「これで見えないでござるし……味に不満は無いでござろう?」
 その積極的な行動に、ただただ圧倒されている。
「あ、ああ……」
 頷きながらも、フィオは恥ずかしそうに頬を染めて。
 気が付けば、ヒイラギの頬も真っ赤に染まっていた。
「もう一つ、食ってもいいか?」
 そのフィオの言葉にヒイラギは答える。
「……い、いいでござるよ」

 二人は人気の無い所で静かに二人だけの時間を過ごす。
 ちょっといや、かなり変わった形のチョコレート。
 形はアレでも、二人をより接近させたのは、他でもない。
 そう。この甘い甘い、前衛的な形のトリュフチョコレートのお陰で……。


イラスト:笹本ユーリ