● 幾多の光の下 幸せなひととき

 夜の星屑の丘。
 少しのんびりと散策した後、二人はゆっくりと草原に腰を下ろした。
「あ、そういえば……これを、ルラさんに……」
 思い出したようにカイジはポケットから、小さな包みを取り出し、隣にいるルラに手渡した。
「開けてもいいかな?」
「どうぞ」
 カイジから受け取った包みを、ルラはさっそく開けてみた。
「わぁ、花の形でかわいい♪」
 そこには、柚子を使って花を模した、楓華風のパイがあった。
 小さく食べやすいよう一口サイズにしたものが、いくつも入っている。
 楓華風……それは、楓華出身のルラが喜ぶようにとカイジの暖かい配慮であった。
 柚子の爽やかな香りが、ルラに懐かしさを与えていく。
 ルラは遠慮がちに。
「カイジ、これ……ここで食べてもいいかな?」
 不安そうに訊ねる。
「もちろん」
 そう言って促すカイジに、ルラは笑顔で一つ、口に運んだ。
「うん。おいしい♪」
 ルラは幸せそうな笑顔をカイジに見せたのであった。

 その笑顔にカイジはほっと胸を撫で下ろす。
 ルラのために楓華風のお菓子をと作ったのだが、ルラの笑顔を見るまで不安であった。
 けれど、こうして、ルラの喜ぶ笑顔を見る……それだけで幸せであった。
 と、目の前にカイジの作ったお菓子が差し出される。
「わたしだけじゃなくて……カイジも……」
 ルラは貰ったパイをカイジにも差し出したのだ。
「では、いただきますね」
 カイジはそれを受け取り、さっそく頬張る。
 おいしいだけでなく、甘い幸せをも感じた……。
 普段と変わらない幸せそうな二人の姿が、そこにある。
 それが場所が、空が違うだけで。
「……愛してます、よ」
 普段決して口にしない言葉が出てくるのは、何故だろう?
 カイジのその突然の言葉にルラは、返す言葉が見つからない。
 言葉の代わりに、ルラは俯きながらも、そっとカイジの手に触れる。
 暖かいルラの温もりが、ゆっくりと手に伝わっていくように……。
 二人はまた、笑顔でお菓子を口にする。
 空には、見守るように祝福するかのように星が瞬いていた……。


イラスト:摩宮靄羅