● 幸せのお返し

 やっと。
 やっと、お返事をもらえました。
 ずっと不安で、苦しくて切なくて……そんな事を思っていたなんて、なんだか、悪い夢を見ていた気分です。
 いえ、今も素敵な夢を見ているような気分です。
 額にキスしてもらえるなんて、思っていませんでしたし……
 だからその……私も何か、お返しをと思うのです。
 ささやかですが、ありったけの感謝と幸せを込めて。
 ……………な、なんだか緊張してきましたっ!
 で、でも……でも、お返しはしませんと…………。
 さあ、勇気を出して、私!

 ルルナとビルフォードは、さえずりの泉で過ごした後、仲良く手を繋ぎながら丘を降りていた。
 そう、二人はもう帰るのだ。
「今日は楽しかったですね、ルルナさん」
 話しかけるのは、ビルフォード。
「は、はいっ」
 ビルフォードに話しかけられ、ルルナはあたふたと落ち着かない。
 いや、これは落ち着かないというのではなく、何故か緊張している様子。
「?」
 と、ビルフォードが首を傾げたときだった。
 くんと、ルルナの手がビルフォードの手を引っ張った。
「えっ!?」
 ビルフォードは驚きながらも、引かれるままに少し屈むような形でルルナを見る。

 ちゅ。

 二人の頭の中が、一瞬、真っ白になった。

「………その、私も大好きです」
 顔を真っ赤に火照らせながら、ルルナはそう、ビルフォードに告げた。
 そう、ルルナはビルフォードの頬にキスをしたのだ。
 先ほど、してくれた告白とキスのお返しに。
 かなり緊張して、ぎゅっと目を瞑りながらの淡いキスであったが、ビルフォードにとって、それは紛れもないルルナからの素敵なお返し。
「もう、ほんっとに可愛いなー、ルルナさんはっ」
 ビルフォードは恥ずかしそうに俯くルルナを、後ろからぎゅっと抱きしめた。

 ルルナさんが、まさかこんな行動に出るとは思いませんでした。
 キスした後、慌てて先に行こうとするあたり、ルルナさんらしいというか。
 それに、ちょっと慌ててるルルナさんが可愛いし。
 ちょっとだけこのまま……時が止まればいいのに。

 二人は幸せそうに丘を降りていく。
 こうして、二人の記念すべきランララ聖花祭は、幕を下ろしたのであった。


イラスト:アルミ