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今宵、私は姫君だけの騎士です
「……麗しの姫君」
ランララ聖花祭の夜、女神の木の前に立つジョゼフィーナの元へ現れたローランは、彼女の足元に跪いた。
そのまま、ジョゼフィーナを仰いで、その双眸で見上げる。
「今宵、私は姫の騎士です。どうぞ貴方をエスコートさせていただきたく存じます」
「は、はい……ありがとうございます、ローランさん……」
そんな彼の言動に、ジョゼフィーナは戸惑いながらも、ひとまず頷く。
ローランは一体、突然どうしたというのだろう?
そう思うけれど疑問を挟む余裕も無く、ローランは言葉を紡ぎ続けた。
「さあ、姫。御手を……」
「は、はい……」
すっと上げられる手。そこに貴方の手を、とローランは告げているのだ。
ジョゼフィーナはその言葉に、相変わらず戸惑いながらも、ゆっくり、おそるおそる、彼の掌へ自分の手を差し伸べる。
「有難うございます、我が姫君」
そっと彼女の手を取るローラン。
そう恭しく告げながら、ジョゼフィーナの掌に視線を落とすと……そっと、ローランはジョゼフィーナの手の甲に、口付けた。
「ローランさん……」
ジョゼフィーナが小さく囁く間に、その唇は掌から離れていく。それでも平然としているローランの顔を見つめながら、ジョゼフィーナの顔が、ほんのりと赤みを増す。
「……これから、どこへ参りましょうか……?」
そのまま、少し恥ずかしそうに尋ねるジョゼフィーナ。
「もちろん、姫君の望む場所へ……。どこへなりともお供いたします」
彼女の言葉に恭しく応じながら、ローランは彼女の手を握ったまま立ち上がる。
「では、参りましょうか……?」
「かしこまりました、姫。お手は、このままでよろしいですか?」
切り出された言葉に、そうローランが問い返せば、ジョゼフィーナは心なしか嬉しげに頷いて。
「はい……ローランさんさえ、よろしければ……」
「では、失礼いたします」
彼女の言葉に、ローランはそっと手を引くと、星々がまたたく丘へ向けて、ゆっくり歩き出した。
今宵は、たった一人。彼女だけの騎士として……。
星屑の丘までエスコートするローランに手を引かれ、ジョゼフィーナは彼を見つめながら、ふんわりと微笑んだ。
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イラスト:山葵醤油 葱
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