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4年目のPRIMIBACI
約束はしてなかった。
会うのが恐かった。
それでもずっと……あなたの気配を、会場で探してた。
その姿を見つけたのは、偶然。
心臓が止まるかと思った。
いるはずのない、彼がそこにいた。
そう思ったとたん、ニューラは彼の元へ向かっていた。
辺りを見渡して。
「こんばんは」
ぺこんと頭を下げる。
「あっ……ども。こんばんわ」
彼、ブレントはいつもと代わらぬ調子で挨拶を交わした。
思わずニューラの顔に笑みがこぼれる。
どのくらいの時間が過ぎたのだろう。
今までのことを話して話して、気がついたら、ニューラばかり話していた。
それでもブレントは変わらぬ素振りで、嫌な顔せずにニューラの話を聞いている。
その途中で。
「ニューラ。ちょっち、来い」
ブレントは、急に話を止めた。
「はい?」
不思議そうに見上げるニューラの頬に手を添え、唇を重ねる。が、ブレントはすぐに離れていく。
不器用なキス。でもそれが、彼なりのお詫びでもあった。
ニューラの並べるつもりだった言葉が、全て真っ白に飛んでいった。
いない間の苦しかったあの思い出も、ソーダ水の泡のように一瞬でじゅわっと解けた。
(「自分を許せない気持ち、許されたくない気持ちを、あなたはキス一つで消し去った」)
ニューラはそっと、静かに瞳を閉じた。
「……ブレントさん、あの、今……何……されたか、よくわからなかったので、……もう一回……とか」
「いや、流石に素面で……もう一回やれと言われても……」
結局、ニューラに言いくるめられて、ブレントはもう一度、キスした。
けれど、今度は、ニューラがキスされた瞬間にブレントさんに抱き、さっきより少しだけ深く唇を重ねて離れた。
ブレントは驚き、かなり照れている様子。
それが、なんだか嬉しくて。
「あーそうそう。言うのを忘れてた」
ブレントは最後にニューラを呼ぶ。
「おかえり。ニューラ」
その言葉にニューラは息を呑んで、しばらく沈黙するものの、最後には笑みを見せて。
「……ただいま、ブレントさん」
その後、手を繋いで帰る二人の姿が見えた。
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