● 闇チョコフォンデュをついばむ二人 in 2008

「今年のランララは、星の見える場所で、リッチなスイーツを味わってみたいな」
 思わずシーザスは呟いた。
 けれど、それは叶わぬ恋のごとく。
 貧乏な二人にとって、リッチなスイーツを味わう余裕すらないのだ。
 呟いた後で、ああ申し訳ないと、シーザスは心の中で愛するオージに謝る。
「そうだ、アレならきっと大丈夫!」
「アレ?」
 オージのいうアレとは一体何なのか? シーザスは思わず首を傾げる。
「闇チョコフォンデュをしよう!」
 闇という部分に何か、ちょっぴり嫌な予感がしたが、チョコフォンデュの言葉にシーザスは心を奪われていた。
 まるで、運命の人と偶然、再会したときのように。
 こうして、ときめきを胸に、ランララ聖花祭当日を迎えるのであった。

 暖かく甘い香りが漂ってくる。
 目の前には暖かいチョコがふつふつと煮えていた。
 その中には、くぐらせるものが既に入っている。どうやら、それを串で刺して食べるだけで良いらしい。
 シーザスはそのうちの一つを串に刺し、ぱくりと口に入れる。
「オージ……何だい、これは……ずいぶんパサパサするが」
「羊皮紙を丸めたやつだよ」
「チョコにまぶすと結構イケるな」
「……」
「……」
 思わず静かになってしまう二人。
 気を取り直して、シーザスはもう一度、尋ねた。
「……食べ物は入ってないのかい?」
 僅かな望みをかけて、そっと。
「あるよ」
 そのオージの言葉にシーザスはキラキラとその瞳を輝かせた。
 だが、それもつかの間。
「ミカンと、リンゴと、じゃがいも。……の皮」
「皮ばっかりだな」
「ほんと、ゴミ出ないんだよね。うちは」
 そんなオージの言葉で、思わず笑みがこぼれる。ため息も一緒に。
「まあ、いいか」
 串を持ったまま、シーザスはオージを抱き寄せる。
「こうして、オージと一緒にいられるのだからな」
「シーザス……」

 リッチさを満喫するはずが、ますますさもしい気分になるのは、きっと気のせいに違いない。
 それを振り払うかのように、二人の甘い時間はゆっくりと過ぎていく。
 数時間後、目の前にあるチョコフォンデュは、全てオージとシーザスのお腹に収まった。

イラスト:Sue