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ランララの花に囲まれて、ちいさな花が、開いた
それはランララ聖花祭の前夜から始まった。
二人の家である捕鯨船の寝室で、アヤノは陣痛に耐え忍んでいた。
アヤノの長女もいるのだが、幼いので、今は母親の元に預けている。
今はただ、子供の誕生を待つばかりであった。
「大丈夫だとは思うけど、イサナの時より陣痛が弱いの。時間がかかるかもしれないわ」
夫であるステールッラに腰をさすってもらいながら、アヤノはそう告げた。
「長期戦か、大丈夫か」
「たぶん」
そういって、アヤノはため息を零した。
長期戦になると聞いたら、何だかお腹が空いてきた。もちろん、陣痛で辛いのだが。
「ステールッラ! なんか食べ物。あたしお腹すいた」
「食べ物? えっと……あるやつでいいか?」
「ん、お願い」
ステールッラは即座に立ち上がり、アヤノの為にご飯を作ってやる。
「タフな妊婦だなぁ」
思わずステールッラは呟いた。
空が白みかけても、子供はなかなか出てこない。
まだなのかと、二人は思わず心配になってくる。その心配を紛らわすかのように。
「あのね、女の子なら、辰姫と一角にするの。男の子なら辰と一角よ。お姉さんがイサナだから、負けない名前にするんだから」
うーんと痛みに耐えながら、アヤノはそういって笑みを浮かべた。
だんだん日は昇ってくる。けれども、お腹の子供はまだ生まれなかった。
「あー、まだなの? 全くっ……」
しびれを切らしたアヤノは、すくっと立ち上がり、その場を少し歩き始める。
「うわっ! 赤ちゃんが産まれて、落っこちたらどうするんだっ!」
「落っこちないわよっ」
結局、ステールッラに説得されて、また寝室に横になった。
それでもまだまだ時間はかかり、やっと昼過ぎに今までにない陣痛が来た。
これでお産は2度目。勝手が分かっているアヤノは、すぐさま産婆を呼ぶようステールッラを使いに出す。
産婆が到着する頃、やっと一人目の女の子を出産。
どうやら、双子だったらしく、まだもう一人、お腹にいるようだ。
我が子が生まれる瞬間は、思わず笑ってしまうアヤノ。
今回は……大爆笑していた。2人目を忘れて。
「に、妊婦が笑ってどうする、赤ん坊が引っ込んじまうだろ!」
ステールッラは驚き、もう感動もどっかへ吹っ飛んでしまったようだ。
しばらくした後、二人目の女の子が生まれた。そのときもまた、アヤノは笑っていた。
外の空気を吸おうということで、子供達をつれて、朝露の花園に来ていた。
流石にアヤノは疲れたらしく、草原に寝そべっている。その側には長女がおり、先ほど生まれたばかりの双子を抱きかかえて涙ぐむステールッラの姿がある。
幸せな家族の時間。お菓子も愛の言葉も無くてもいい。家族が一緒なら……。
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