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<ランララ大作戦>主導権を奪え!
………忘れてはいけなかったの。恋愛は戦いだ、ってこと。
綺麗な花が咲いている。時折吹く風が、優しく花たちを揺らしていく。
その中に二人はいた。
朝露の花園で……恋愛という名の戦いが幕を開けた。
フェアの手には、花びらみたいに薄く削ったホワイトチョコレートで包んだケーキがあった。
一人分を切り分けて、フォークを添えて、微笑みながらセルシオに手渡そうとした。
「朝露のお菓子を女神に捧げた……あの伝説の少女よりも、甘い想いを蜂蜜に込めたから、ひとくちずつ味わってね」
けれどもそれはできなかった。
「あーん」
食べさせて。そういうかのように、口をあけるセルシオ。
どうやら、フェアの手で、食べさせて欲しいらしい。
(「いつまで新婚気分なのかしら、しょうがない人」)
思わずくすりと微笑んでしまう。フェアは添えられたフォークでケーキを一口大に切り分け、セルシオの口へと運ぶ。
「いつまでたっても甘えん坊なあなた。蜂蜜ケーキのお味はいかが?」
セルシオは去年のことを思い出していた。
去年は、膝枕をねだって、それを実現した。少し気恥ずかしい思いもあったけど、嬉しさの方が強かった。
だけど。
同じ手は2度使わない。それが戦いの鉄則。
(「いつも甘えてるばかりじゃないさ。それは君も知ってるはず」)
じゃあと、セルシオは提案した。
「お返しに僕からも食べさせてあげる。目をつぶって『あーん』して?」
フェアからケーキを奪い、フォークの先のケーキをフェアの口元へと持っていく。
「あーん」
セルシオはくすりと微笑んだ。
「いつまでたっても無防備な君。蜂蜜味のくちびるは好き?」
来るはずのケーキはそこになく、その代わりに来たのは、セルシオの唇。
甘いものを食べていたせいか、いつもよりも甘く感じられるのは……気のせいだろうか?
セルシオの不意打ちのキスはこうして、成功を収めた。
頬が熱い。その熱さを感じながらフェアは思い出した。
セルシオが、悪戯好きだということに。
(「ケーキより、やわらかいくちづけがお返し?」)
セルシオは知らない、このキス一つで、フェアの胸が嬉しさでいっぱいになっていることを。
(「これは私からもお返ししなくちゃ」)
得意げに笑っているセルシオに、フェアは。
不意をついて、ぎゅっと抱きしめた。
「紋章術士は拘束のプロよ?」
囁くようにフェアは続ける。
「もう、絶対離さないから」
どうやら、この戦い……フェアの勝ちのようだ。
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