● 月明かりと花と君と

 月明かりに照らされ、美しい草花が風にゆらゆらと揺れている。
 クロイツとマリンローズは、そんな花園の中をゆっくりと歩いていた。
 二人、手を繋ぎ、顔を見合わせては微笑んでいる。
 ふと、二人の足が止まった。
 月影を浴びた、淡い色の薔薇。
 薔薇は、マリンローズの名前の中にもある。
「月明かりに照らされる花も美しいものだな」
「ええ、夜の花園も、また違う顔で綺麗ですね」
 久しぶりの外出で、二人は少し浮ついた心地でいた。
「マリン、寒くはないか?」
「いいえ、これくらい平気です」
 そういうマリンローズの肩を、クロイツはぐっと抱き寄せた。
「……こうしているとあたたかい、な」
「何だか照れてしまいます」
 頬を赤く染め、俯くように照れ笑いを浮かべるマリンローズ。
 でも、とマリンローズはまた口を開いた。
「久しぶりにこういうおでかけができて、すごく幸せです……」
 その言葉にクロイツも幸せそうに微笑んだ。

 ふと、マリンローズは思い出したかのように、用意してきたプレゼントを取り出した。
「クロさん、受け取ってもらえますか?」
「ああ、もちろんだとも」
 クロイツが受け取ったのは、薔薇の形のチョコレート。
「これは……かなり凝ったチョコレートだな」
 これほどまでに凝ったものが贈られるとは思っていなかったクロイツ。
 自分の為に頑張ってくれた彼女の姿を思い浮かべ、クロイツは嬉しい気持ちでいっぱいになった。
「ありがとう、マリン……」
 チョコレートを貰ったお礼に、クロイツはその額にキスを贈る。
「私も喜んでもらえて、嬉しいです……」
 幸せそうに微笑むマリンローズに、クロイツも微笑む。
「これからもこうして一つ一つの幸せを、一緒に共有していきましょうね……?」
「ああ。私達の道を共に歩んで行こう。これらもずっと……な」
 二人は寄り添い、目の前にある薔薇を見つめる。
 月の灯りを含んだ、淡い色の薔薇。
 それは、二人を祝福するかのように、静かにそっと咲いていた。

イラスト:秋月えいる