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支え合って
夜の星屑の丘。空には美しい星達が瞬き、ここに来た者達を祝福しているかのようにも見える。
「オルーガ!」
その姿を見つけたのは、アクラシエル。オルーガに誘われ、ここまできたのだ。
「エル様。お待ちしておりましたわ」
すぐに相手を見つける事ができて、二人は思わず笑みを浮かべる。
「隣に座っていいかな?」
「ええ、どうぞ」
オルーガの隣に座り、もう一度微笑むアクラシエル。
ふと、オルーガは側にある花を見つけた。
「綺麗な花……ここではもう、春みたいですわね」
春の花が咲いているのは、つい先ほどまで、春の女神がいたから。
「そういえば、オルーガは春が好きだっていってたっけ?」
「ええ……何かが始まる春、わたくしの大好きな季節ですわ」
オルーガはそう微笑み、答えた。
「俺も好きだな」
何かの始まりや命を謳歌する季節、飛躍の季節というイメージがあるからと心の中で付け加えて。
(「俺達は恋人同士ではないけれど、かけがえの無い存在だ」)
アクラシエルは、瞳を細めながら、オルーガを見つめる。
そう、二人しかわからない痛みや悲しみを知り、幸せな未来へと歩んでいくパートナーとして。
過去にオルーガは大切な人を失っていた。恋人と呼べる人……本当に大切な人であった。
(「我が君はもう居ないけれど、愛しい愛しい我が君の面影だけを持ったエル様が、此処に居て……どうしても想いを重ねてしまいそうになるけれど」)
その瞼を閉じて、もう一度、アクラシエルを見た。
「ありがとう、誘ってくれて。これからもよろしくね」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」
微笑むアクラシエルにオルーガも笑みを浮かべる。
(「わたくし達はパートナー。共に戦場を翔け、共にひと時を過ごし……そうして年を重ねていく。わたくしにとっては、これ以上の幸せはないですわ」)
そして、オルーガはそっと、持ってきたお菓子をアクラシエルに手渡した。
その包みの中に入っているチョコレートには、オルーガの『想い』が込められている。
かつて捧げた想いとは違う、パートナーとしての『想い』。
「ありがとう、さっそく開けていいかな?」
アクラシエルはその包みを開け、トリュフチョコを見た。
「粉雪みたいな砂糖が綺麗……」
そう呟き、一つを口に入れる。
「とっても美味しいよ。ありがとう、オルーガ」
「喜んでくださって、嬉しいですわ」
そして、二人は空を見上げた。
(「星々に誓う。俺がオルーガを支えていくと」)
真剣な眼差しで、アクラシエルは心の中で誓った。チョコレートに含まれた想いも全て受け取って。
(「天に輝く星たちよ、どうか其処から、わたくし達を見守っていてください……」)
そのアクラシエルの側で、オルーガも星に祈りを捧げる。
と、オルーガはアクラシエルを見た。
「さ、戻ったら訓練に付き合ってくださいますわね? エル様♪」
「え?」
どうやら、二人の甘い時間はここまでのようだ。これから先は、二人の厳しい特訓が行われるのだろう。パートナーとしての絆を深めながら……。
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