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私だってこういうこと、するんだぞ
様々な場所を巡っていた二人。
最後に着いた場所は、さえずりの泉だった。
小鳥のさえずる声、泉のせせらぎもまた、心地よい。
アイとアストは、ゆっくりと畔を歩く。
「アストって肌綺麗だよなあ……なにか秘訣があるのか?」
アイは思い立ったように、アストの頬を両手で触れる。
いつになく積極的な行動に驚きつつも、アストは答える。
「いっ!? ひ、秘訣って言われてもな……肌に関係あるかどうかはわからないけど、料理作るときは肉も野菜も使うようにしてるし……バランスの問題じゃないか?」
「うむ、なるほど……」
そう呟くアイにアストは続ける。
「……オレとしては……アイの肌だって綺麗だと思うんだけど……」
普段の彼女なら、これを聞いただけで赤面する内容なのだが……。
「ありがとう、アスト……それにしても本当に、綺麗な肌だよなあ……いいなあ」
けれどアイは、笑顔のまま、しげしげとアストを眺めている。
いつもとは違うアイの態度に、アストは動けず頬を染めていった。
(「うぁ……か、顔近……しかも笑顔でこんな近……しかも触られ……あ、あうぅ……」)
少しずつ近づいていく顔。
そして。
アストの唇にアイの唇が重なる。
「っ!!」
目の前が真っ白になった。
「……た、たまには私だってこういうこと、するんだぞ」
恥らうかのように、アイは告げる。
矢継ぎ早な展開についていけないアスト。
けれど、唇の感触はしっかりと残っていて。
しばらく沈黙した後、落ち着きを取り戻したアストが口を開いた。
「オレ……アイと恋人になれてよかった」
そのまま、アイを抱きしめ、額にキスをする。
「ありがとう。私も同じ気持ちだ。……好きだよ。アスト」
その後、二人はゆっくりと泉を後にする。
頬にはまだ、僅かに火照ったまま。
(「しばらくアストのことで頭がいっぱいだろうな……眠れるかな今夜?」)
アイは思う。ふと、隣に居るアストを盗み見て。
(「今までも好きだったけど……まさかそれを超えて好きになるなんて思わなかったな……」)
アストもまた思う。隣に居るアイを盗み見て。
二人の視線は合わさることなく交差していく。
けれど、繋いだ手の温もりは、二人にとって暖かく感じられたのであった。
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