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菫の花と空のお星様
「漢らしく約束は守るっ!」
その言葉どおり、ディッカは約束の場所に来た。
スーツ姿のディッカは、きょろきょろと、さえずりの泉でリゼッテを探す。
ちょっと不安な事が一つ。
リゼッテから、肉体を凌駕する魂奥義を用意しておいて欲しいと言われているのだ。
言われるままに用意してきたのだが……。
「ディッカさん」
声を掛けられ、はっと振り向く。
そこには、可愛らしいスカートを着たリゼッテの姿があった。
ちなみにもう一つ言わせてもらえるのならば、リゼッテはれっきとした男である。
「お待たせしちゃいましたか?」
「い、いや……さっき来たばかりだし」
いつもとは違う服に雰囲気に、ディッカは思わず、どきまぎしてしまう。
かなり似合っているし、可愛いのだ。
「ま、まずは座ろうか?」
「はい」
二人はそろって、腰を下ろした。目の前には月影を受けて、きらきらと輝く泉が見える。
「あ、ディッカさん。これ、僕が作ってきたんです」
一生懸命作ったんですよと付け加えて、リゼッテは持ってきたプレゼントを差し出した。
抱えるほどに大きめなプレゼント。
「わあ……ありがとう、リゼ!」
嬉しそうにそのプレゼントを受け取った。そして、少し困ったように、照れたかのようにディッカはリゼッテを見る。
「これ、ここで開けてもいいかな?」
「どうぞ♪」
リゼッテの承諾を得られて、嬉しそうに笑顔を浮かべるディッカ。さっそくその包みを開けてみると。
どどーーーん!!
その手が止まった。
包みの中から現れた、チョコレート(?)は、吐き気を催すほどに醜悪な形をしていた。そう、たとえるのならばケイオス・オーガンのような……。
ごくりと、ディッカは息を呑んだ。
「あ、命の抱擁も毒消しの風も準備万端ですよ。医術士ですから!」
ぐっと拳を握って、にこっと微笑むリゼッテ。
なぜ、リゼッテが用意してくれと言ったのがわかった。
だが……。
(「俺も男らしくこの……チョコだったらしい何かを食べなければいけないのだろうか……」)
逃げ出したい気持ちと、漢でありたいと思う気持ちがせめぎ合う。
果たして、ディッカはそのチョコ(?)を口にするのか?
そして、彼の運命は……!?
そんな緊迫感も気づかぬように、オコジョのネオとリスのマヤは、スミレの花を付けて、楽しげにじゃれあっているのであった。
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