● ティータイムを君と

 二人が交わした、たった一つの約束。
 今、その約束が果たされる。
 とはいっても、約束というものではなく、単なる賭けなのだが。

 綺麗な花が咲き乱れる花園に、エプロンドレスを着たサイファがやってきた。
 誤解ないように伝えておくが、サイファはれっきとした男である。
 その恥ずかしそうにやってくるサイファを見て、リゼッテはとても上機嫌で微笑んだ。
「とっても可愛いのですよ、サイファ♪」
「笑うな……っ!」
 サイファは真っ赤な顔をさせて、叫ぶのであった。
 しばらくして。
「んっ」
 サイファはおもむろに持ってきたものをリゼッテに手渡した。
 開いたそこにあったのは、フワリンの形をしたチョコレート。
 ぱあっと、リゼッテの顔が幸せそうな笑みを浮かべる。
「わ……サイファ、ありがとー……♪」
「………」
 恥ずかしそうに頬を染めながら、サイファは俯いてしまった。

 暖かいお茶がカップに注がれる。
 サイファはそれを受け取り、こくこくと飲んでいく。
 そして、チョコレートをぱくりと口にした。
 その隣で、リゼッテもお茶を飲みながら、チョコレートを楽しんでいる。
(「こんなふうに、穏やかで楽しい時がいつまでも続くといいな」)
 大好きなフワリンの形の、大好きなチョコレートを食べて、リゼッテは幸せそうな笑みを浮かべた。
 ふと、サイファはおもむろに顔を上げる。
「……ありがとう、な」
 聞こえないくらいの小さな声で、ぽつりと言った。
 リゼッテに届かないと思っていた言葉。
 なのに、その言葉はしっかりと届いていた。
「おや、女装できた事がそんなに嬉しかったのかな?」
「ち、違うっ! そうじゃなくって!」
 リゼッテの言葉にサイファはすぐさま否定している。
「……こちらこそ、ありがとう」
 くすくすと笑うリゼッテの、小さな呟きは果たして、サイファに届いただろうか?

「……次はリゼッテがやるんだぜ?」
「はいはい」
 サイファの言葉にリゼッテは、そんなの逃げてやろうと思っている。
 果たしてサイファの願いは叶えられるのか。
 それはまた、別の話……。
 今はこの甘くて幸せな時間を楽しもう。

イラスト:綺月るぅた