● 梅見月の思い出 〜待ち人は……〜

 街角で試練の募集をしている頃。
 カガリ達が所属している旅団でも、試練の事が噂になっていた。
 しかし、タケマルが『持ちネタが無いですねぇ』と口にしたため、カガリはショックを受けていた。
 既にお菓子は作成済み。
 これでタケマルが試練に参加しないと言う事になると、すべての苦労が水の泡になってしまう。
 思わぬダブルパンチを食らいながら、カガリが何とか気を取り直して、どうすればいいのか考え込む。
 その結果、思いついたのだが、『丘で待ってます』と一言メッセージカードを出す事だった。
「来てくれるやろか……」
 そして、ランララ聖花祭当日。
 カガリは女神の木の下で、タケマルが来るのを待っていた。
 結婚していても大好きな人に贈りたい気持ちは変わらない。
 直接、本人を手渡さず、こっそりとメッセージカードを出したため、タケマルが気づいていない可能性も捨てきれないので、カガリも緊張した様子で胸をドキドキとさせている。
 きちんとメッセージカードを受け取っていれば、幾多の試練を乗り越えて、ランララの丘に現れるはずだが、メツセージカードの存在に気づいていなければ、この場所に来る事はないだろう。
 一方、その頃。
 タケマルは『丘で待っています』というカガリからのメッセージカードを受け取り、『お菓子を持って待っててくれるんだ〜』とのんきに丘を目指していた。
 カガリとは対照的に緊張感がまったくないのだが、タケマルも彼女と同じようにお菓子を持参し、飄々と試練を乗り越えていく。
 そして、女神の木の下で不安を募らせて待ち続けていたカガリを見つけ、タケマルがホッとして表情を浮かべてニコリと笑う。
 その途端にカガリの表情がぱぁっと明るくなり、そこでようやく自分が勘違いしていた事に気づく。
 そのため、カガリは自分の感情を抑える事が出来なくなり、あまりの嬉しさに涙を浮かべてタケマルに飛びついた。

イラスト:砥部スカラ