● ランララ聖花祭〜愛しい人〜

 女神の木の下で、ムユウを待つのはエンド。
 実は明確な約束などしていない。
 けれども、来てくれるとエンドは確信していた。
 その手には手作りのお菓子の入ったバスケットが用意されている。
 ふと、空を見上げた。
 そこには、あの戦いで現れた黒き太陽……いや、正確には魔石のグリモアが見える。
 夜だというのに見える、その忌々しい太陽にエンドは思わず眉をひそめた。

 一方、ムユウはというと。
「遅くなったなぁ〜ん。まだ……いるかななぁ〜ん?」
 疎らになっていく人の数にムユウは次第に不安になっていく。
 冷たい風。
 そして、夜というこの時間。
 ムユウの足が次第に速くなるのも無理はないだろう。
 と、前方に人影が見える。
 会いたいと願っていたその人。
 ムユウは飛び込むようにその人……エンドに抱きついた。

「どう、しました……?」
 抱きしめたムユウの手に力がこもる。
「……何でも、ないなぁ〜ん」
 本当は不安だったのにそれを出せないのは、きっと相手を不安にさせたくないから。
 それを知ってか、エンドは安心させるかのように、ムユウの腕にそっと手を添えて。
「大丈夫です……」
 そう静かに答えた。
 ムユウはそれを聞いて、その手の力を緩めた。
「うん……大好きなぁ〜ん」
 俯いたままだけれど、ぎゅっとまた抱きつくムユウ。
 エンドがどこかに行ってしまいそうで。
 そんなムユウの耳にエンドの声が届く。
「愛している」
 その声にムユウはやっと、笑顔を見せた。

イラスト:つづる