● 愛の証

 すっかり日が落ちて、辺りが薄闇に包まれた頃。
 白き静観者は黒き傍観者と並んで、星屑の丘から見える景色を眺めていた。
 星屑の丘から見えるいくつもの灯り……。
 まるで夜空の星を映し出すようにして、地上でも民家の明かりが灯っていく。
 幻想的に光を放つ街の景色……。
 その光がふたりの心を和ませてくれる。
「……綺麗だね」
 ゆっくりとフードを外しながら、白き静観者が幸せそうな表情を浮かべた。
 ふたりで一緒に見ているせいか、いつもと比べて街の景色も美しく感じられる。
 普段は何気なく見ている景色でも、黒き傍観者と一緒にいる事で、まったく違った景色に見えた。
「ああ、綺麗だな……」
 黒き傍観者も同じ気持ちだったのか、彼女と一緒に星屑の丘から広がる景色に視線を送る。
 ……幸せな一時。
 ふたりで一緒にいる間は、日頃の嫌な事など忘れてしまう。
 こうやって一緒にいるだけで、ふたりの心が満たされていく。
「何だか幸せ」
 白き静観者が照れた様子で、黒き傍観者の肩に頭を乗せた。
 他には誰もいないのだから、もっと甘えるべきなのかもしれないが、やっぱり恥ずかしいようである。
「……私もだ」
 その様子を眺めながら、黒き傍観者が優しく頭を撫でる。
 黒き傍観者にとって、白き静観者はかけがえの無い存在。
 それは白き静観者にとっても同じ事。
 ふたりの気持ちを繋げているのは、目には見えない運命の糸。
「ずっと一緒だからね……」
 黒き傍観者に視線を送り、白き静観者が愛の証を確認した。
「あぁ……、一緒だ」
 まったく揺らぎの無い言葉。
 黒き傍観者の言葉が、白き静観者の心に響く。
(「……大好き……」)
 言葉に出さなくても、伝わる思い……。
 その間も、ふたりの首元で色違いの勾玉のついたネックレスが、優しくゆらりと揺れていた。

イラスト:にまい