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親子のてふまん〜ほろ苦い抹茶の味〜
聞こえるのは、鳥のさえずりと静かに揺れる泉の音。
そこには穏やかな時が流れていた。
ここはさえずりの泉。
カエサルとマラーの二人は、良い場所を見つけると、そこに腰を下ろした。
カエサルの手には、暖かい袋も。
「ほら、今回はてふまんが抹茶味だ」
そういって、カエサルが袋から取り出したのは、出来立てのお饅頭。
蝶々型の焼き印が施されている。
このてふまん、毎年、中身を替えていたりする。
今回は、マラーに渡すということで、抹茶味にしたようだ。
「うわー」
瞳を輝かせて、マラーはそれを受け取る。
「いただきまーす!」
はぐはぐと、まずは一つ平らげて。
「美味しいっ! もう一つもらっていい?」
「ああ、好きなだけ食べればいい」
カエサルの言葉にうわーいと言わんばかりに、マラーはてふまんの入った袋に手を突っ込んだ。
それはまるで、幼い子供のように。
その様子に思わず、カエサルはふふっと笑い出す。
どんどん大きくなって、いつの間にか背を抜かされて。
何だかすぐ大人になるんだと思っていた。
でも。
(「今のマラーは会った頃のマラーと同じ、なんだな」)
なんだかそれが嬉しくて、カエサルはその瞳を細める。
出会ったばかりのマラーは、カエサルよりも小さかった。
今のマラーは、カエサルよりも見て解る程に、大きく成長していた。
急速に成長していくマラーに、少し寂しさを感じていたのかもしれない。
けれど、カエサルは今、わかった。
そんなことを寂しがる事に、意味はない。
身体が大きくなろうとも、マラーの心がマラーである限り、二人の関係は何も変わらないのだ。
「どうしたの?」
その食べる手を止めて、マラーが尋ねる。
じっとマラーを見つめ続けるカエサルを、マラーは不思議そうに覗き込んでいた。
「いや、まだまだ子供だなぁと思って」
愛情たっぷり込めて、カエサルはそう答えるのであった。
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