● 親子のてふまん〜ほろ苦い抹茶の味〜

 聞こえるのは、鳥のさえずりと静かに揺れる泉の音。
 そこには穏やかな時が流れていた。
 ここはさえずりの泉。
 カエサルとマラーの二人は、良い場所を見つけると、そこに腰を下ろした。
 カエサルの手には、暖かい袋も。

「ほら、今回はてふまんが抹茶味だ」
 そういって、カエサルが袋から取り出したのは、出来立てのお饅頭。
 蝶々型の焼き印が施されている。
 このてふまん、毎年、中身を替えていたりする。
 今回は、マラーに渡すということで、抹茶味にしたようだ。
「うわー」
 瞳を輝かせて、マラーはそれを受け取る。
「いただきまーす!」
 はぐはぐと、まずは一つ平らげて。
「美味しいっ! もう一つもらっていい?」
「ああ、好きなだけ食べればいい」
 カエサルの言葉にうわーいと言わんばかりに、マラーはてふまんの入った袋に手を突っ込んだ。
 それはまるで、幼い子供のように。
 その様子に思わず、カエサルはふふっと笑い出す。

 どんどん大きくなって、いつの間にか背を抜かされて。
 何だかすぐ大人になるんだと思っていた。
 でも。
(「今のマラーは会った頃のマラーと同じ、なんだな」)
 なんだかそれが嬉しくて、カエサルはその瞳を細める。

 出会ったばかりのマラーは、カエサルよりも小さかった。
 今のマラーは、カエサルよりも見て解る程に、大きく成長していた。
 急速に成長していくマラーに、少し寂しさを感じていたのかもしれない。
 けれど、カエサルは今、わかった。
 そんなことを寂しがる事に、意味はない。
 身体が大きくなろうとも、マラーの心がマラーである限り、二人の関係は何も変わらないのだ。

「どうしたの?」
 その食べる手を止めて、マラーが尋ねる。
 じっとマラーを見つめ続けるカエサルを、マラーは不思議そうに覗き込んでいた。
「いや、まだまだ子供だなぁと思って」
 愛情たっぷり込めて、カエサルはそう答えるのであった。

イラスト:あららぎ風矢