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ランララ聖花祭・花園と夕月
「……恋人の集まる花園か。見ているだけでも詩情が掻き立てられる。おっと、そんな事はまだ重要じゃない、か」
夕焼けに照らされた朝露の花園をゆっくりと眺めた後、オームがミネルバのいる方向に視線を送る。
『一体、何の用があるのだろう』と疑問に思ったが、場所が場所だけにある程度の想像はつく。
「……正直に告白します。私はあなたの事が好きです」
ありったけの勇気を振り絞って、ミネルバがオームに告白をする。
『いまさらね何を言っているんだ』と言われ、振られてしまうのではないかという不安が過ぎったりもしたが、これ以上何も言わずにジッとしている事が、彼女には耐えられなかった。
その思いの結晶である雪待ち野バラの花小箱をオームに渡す。
これは、ついこの間ノイシュの森で手に入れたもの……。
受け取ってくれるかどうかは……、ミネルバにも分からない。
しかし、オームはミネルバの予想を反し、何も言わずに微笑んで雪待ち野バラの花小箱を受け取った。
「ほ、本当にいいのか。私はあなたより年上で、もっと早くに死んでしまうかもしれない。 ……尻尾だって生えてるし、体も鱗でゴツゴツだ。 せ、性格も……見えてないだけで乱暴でがさつかもしれない。 ……それでも、いいんですか」
信じられない様子で、ミネルバが何度も確認をする。
本当は涙が出るほど嬉しかったが、オームが単なる気の迷いで返事をしたのではないかと言う不安が過ぎった。
「……分かっている」
ミネルバの言葉を遮るようにして、オームが優しい抱擁で応える。
もうミネルバも何も言わなかった。
そこにあるのは優しく、穏やかで静かな時間だけ。
「ところで……、一つ、歌っていいかな」
オームの囁きに、ミネルバは首肯し、二人で近くの手頃な岩に腰掛ける。
そして、演奏が始まった。
この日の周りの恋人達から題材をとった詩を乗せて……。
優しい音色と声が響いてゆく。
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