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〜ほんの少しの勇気と真心を込めて〜
(「レグルスは……、来てくれるだろうか……?」)
出来るだけ人気の少ない時間を選び、アーリスが手作りチョコレートの包みを手に持ち、女神の木の下でレグルスが来るのを待っていた。
……別に約束したわけではない。
ただ、何となく話をしていただけ。
それでも、レグルスなら分かってくれると思っていた。
……はずなのだが、不安で不安で堪らない。
もちろん、レグルスを信用していないわけじゃないのだが、自分の思いが本当に伝わっていたのか自信がなかった。
「よっ、待ったか。それで用って何だ?」
彼女とは対照的に余裕のある素振りを見せ、レグルスが自然と笑みを浮かべて近づいていく。
いつもの自信たっぷりなレグルスの顔を見て、今までアーリスの身体を支配していた不安が解れ、心の底から安堵した様子で溜息を漏らす。
「が、柄じゃない事は判ってる。……でも、どうしても、これを渡したくて……」
緊張した様子で深呼吸をしながら、アーリスが手にした包みを差し出した。
そのせいで、アーリスの心臓が早鐘の如く高鳴っていき、頭の中が真っ白になっていく。
耳の先まで真っ赤になっている事が、自分でもよく分かるほど、落ち着きがなくなっている。
(「……何とかして冷静にならないと」)
そう言って自分自身に言い聞かせるが、レグルスの顔を見るたび、何も考えられなくなってしまう。
「……ん? どれどれ」
真っ赤になって照れている彼女が可愛いと思いつつ、レグルスが包みを受け取って中身を確認する。
包みの中にあったのは、両手を広げたくらいの大きさがあるハート型のブラックチョコレート。
その表面にはホワイトチョコで『to R from A』と描かれていた。
「美味しそうじゃねぇか、上手に出来てるな」
内心驚きつつもニヤッと笑みを浮かべ、レグルスがチョコレートを一口食べる。
「ごちそーさん」
ゆっくりとチョコの味を堪能し、レグルスがアーリスの頬に手を添え、もう一方の頬に軽くキスした。
「い、いきなりキスなんて不意打ちすぎるだろ……!?」
驚いた様子で顔を真っ赤にしながら、アーリスが思った事を口にする。
本当ならば何か別の事を言おうと思っていたが、あまりにも予想外の出来事だったので、何も考えられなくなった。
「くくっ、相変わらず可愛い反応だねぇ、まったく」
苦笑いを浮かべながら、レグルスがアーリスの肩を抱き寄せる。
そして、レグルスが再びチョコレートを齧り、その味を堪能するのであった。
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