● 今年も星空の元で

 星屑の丘から臨む空には、満天の星空が広がっていた。
 キールディアとシェルディンは、三年目となるランララを、この丘から星空を眺めて過ごしていた。夜の風は寒さをもたらすが、温かな紅茶と美味しい夜食、そして2人の視線に宿る暖かさが、そんな寒さも忘れさせる。
 この3年、同盟諸国にも、2人にも色々な出来事が起こった。
 だが、それでもなお変わらぬ仲睦まじい関係を保てていること……それを、2人は何よりも尊く感じていた。

 2人で共にする楽しい談笑の時間は瞬く間に過ぎ、帰るべき時間は訪れる。
 そうした時に、不意にキールディアはシェルディンに告げた。
「お星様に、なにかお願いをしよ?」
 空を見上げ、その中でも一等輝く星を指差す。
 今日は、1年に1度のランララ聖花祭。
 特別な今日の星空なら、自分達の願いを叶えてくれるかも知れない……そう語るキールディアに、シェルディンは微笑で頷く。
「ええ、そうしましょう」
 とはいえ、何を願うべきだろうかと考え始めた彼女に、キールディアは再び口を開く。
「……あの……それから」
「はい?」
 小首を傾げたシェルディンの耳元に小声で、
「その……シェルが嫌じゃなければ……貴女からの『ちぅ』も……欲しい、な……なんて」
「……!?」
 もし明るければ、シェルディンの赤い鱗がさらに赤みを増すところが見られただろう。
 勇気を振り絞って言ったのだろう、自身も真っ赤になったキールだが、シェルの慌てぶりを否定と見てか、諦めたように立ち上がろうとする。
 ふと、キールの頬に温かな感覚があったのはその時だった。
「……これで……宜しいですか?」
 驚きの表情で自分を見つめて来るキールディアに対し、その頬に口づけたシェルディンは恥ずかしそうに問う。理解と喜びの色が、キールディアの顔にたちまち広がった。
「……やっぱり……シェルは可愛いな♪」
「ヒャウッッ!?」
 言葉と共に抱きすくめられ、シェルディンの尻尾が丘の地面を軽く叩く。
 僅かの間だけもがくが、やがてシェルディンは力を抜くと、キールディアの胸に抱き寄せられた。
(「考えてみれば、これも私のお願い……『キールとの幸せな日常』に違いありませんから」)
 どうやら星々はシェルディンの願いを先に聞き届けてくれたらしい。
 星々の見下ろす空の下、2人の間にはどこまでも暖かな空気が流れていた。

イラスト:ノブ