●花園にて、あなたと
太陽の光に満ち溢れた朝露の花園。その一角で、ジンとリレィシァは過ごしていた。
「あのね、むしゃりんのチョコ作ったのよ」
「これは……!」
リレィシァが差し出した箱の中身は、ムシャリンの形の可愛らしいチョコレート。瞳にドライチェリーを使い、角に角砂糖を使ったそれは、まさにムシャリンそのもの。それを見たジンは思わず身を乗り出して瞳を輝かせた。
「よく出来てるな……本当に、これ、貰っていいのか?」
「もちろん」
普段は落ち着いた雰囲気のジンも、大好きなムシャリンのチョコレートを前にして平静ではいられなかった。まるで子供のように喜ぶ姿を、リレィシァはいつになく可愛いとくすくす笑って見つめている。
(「頑張った甲斐があった、かな?」)
彼に気付かれないように……決して気取られないように、リレィシァは巧妙に指先を隠す。ムシャリンの可愛い形に作るのは、それほど容易ではなくて……でも、ここまで喜んでくれたなら、作ってみて良かったとそうリレィシァは思う。
「んと、頭としっぽ…どっちから食べる?」
「角」
即答するジン。彼がムシャリンを好きな理由は、その角にあるのだ。格好良い角から食べたいと、そう思うのは自然な心理かもしれない。
「でも、それ食べたらのそりんになっちゃうよ?」
「む」
くすくす笑うリレィシァの言葉に、ジンは眉を寄せて考え込む。
それでも結局、ジンは角から食べる事を選ぶと、頭からむしゃむしゃと食べ始める。
だって、丸ごと食べちゃえば一緒だから。……『コウブツ』は、丸ごと慈しむのが筋というものだろうし、なんてそうジンは思う。
ムシャリンのチョコレートを、最後のひとかけらまで食べ尽くして、満足げな顔をするジン。くすくす笑いながら彼を膝枕するリレィシァを見上げて、ジンはぼんやりと思う。
――嬉しそうに、覗き込んでくる真昼の空の色をした瞳。それに、吸い込まれてしまいそうで……ああ、自分に無いものだからこそ、惹かれてしまうのだろうか?
そっと指を伸ばして、ジンはリレィシァの髪に絡める。
太陽の光を透かした蜂蜜色に触れれば、リレィシァは頬を赤くしながらはにかんで。
二人は見つめ合ったまま、穏やかに過ぎていく時を過ごすのだった。
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