● Sous le clair de lune

 ランララ聖花祭の当日。
 ヒースはモニクを朝露の花園に呼び出した。
 朝露の花園を選んだのは、モニクが花を好きだから……。
 待ち合わせの時間は、夜。
 月と星明りが照らされた朝露の花園はとても美しく、幻想的な雰囲気が漂っている。
 普段は無表情に近いモニクだが、花園の雰囲気が気に入ったのか、のんびりと辺りを眺め、少しだけ嬉しそうな表情を浮かべていた。
 ヒースはそんなモニクを温かく見守り、優しげな笑みを浮かべている。
 その間も、モニクはヒースをあまり気にせず、背を向けたまま花を眺めていた。
 未だにふたりは『恋人』と呼ぶほどの関係にはなっていない。
 それどころか、モニカは若干ヒースを警戒しているところがある。
 ……とは言え、今日はランララ聖花祭。
 そんな事など忘れて、彼女と過ごそうと考えている。
 だが、彼女と一年半近く会っていなかった事もあり、若干警戒心を抱かせたままだったので、この場所に来てくれるのかさえ心配になっていた。
 とりあえず、モニクがここに来てくれたので、一先ず安堵。
 月明かりに照らされた花園の風景も、気に入ってもらえた……はず。
 軽く挨拶を交わした後、何を話せばいいのか思いつかず、ただ輝く夜空を無言のまま眺めた。
 その淡い光に照らされた朝露の花園……。
 時折、モニクの様子を見ながら、流れていく時間を過ごす。
(「……らしくないな」)
 自分自信でもそう思うが、そもそも戦う事しか知らずに育ち、今までそれが普通だと思って暮らしてきた自分が、誰かにここまで執着する事自体が、らしくないと言えばらしくない。
 それが、いつから変わり始め、いつから変わったのか、そんな事は解らないし、意味が無いのかも知れない……。
 しかし、以前とは違う自分自身が、ここに存在している事も、確か。
 そう思って、ヒースは意を決して、モニクに呼びかける。
「……モニクさん。私は、貴女の事が好きらしい。だからどうしたいのかとか、正直今の私自身にもよく解らないのですが、それだけは憶えておいてほしい。今日は久し振りに会えて嬉しかった。ありがとう」
 嘘偽りの無いヒースの言葉。
 その言葉を聞いて、モニクが優しく笑ったように見えた。

イラスト:宮園アカネ