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花に埋もれて
(「……思えば色々と……あったな……」)
数多くの試練を乗り越え、オーディガンは女神ランララの木に立った。
何気なくランララの木を眺め、今までの出来事を思い出す。
楽しい事や、嬉しい事……。
ゆっくりと記憶の糸をたどりながら、その時あった出来事を思い出していく。
そのすべてが今まで経験したことであり、何ものにも代え難いものになっている。
例えるならば、オーディガンにとっての宝。
ひとつひとつが宝石の如く煌き、オーディガンの心の中で、キラキラとまばゆい光を放っている。
(「……本当にたくさん良いことが今まであった」)
しかし、何度も長いこと待たせてしまったり、心配させてしまったこともあった。
途端にセラフィンの姿が思い浮かぶ。
彼女に会うと、あまりの嬉しさに忘れがちになってしまうが、色々と悪い事をしてしまったので、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
きっと、彼女なら分かってくれると思っていたが、何も言わずにいるのも良くないと思った。
(「……長く一緒にいると、言いも悪いも様々な思い出が残るな… 悪いことをした分も、また今以上にたくさん良い思い出を造らねば……」)
自分自身に言い聞かせるようにしながら、オーディガンが試練を乗り越えてやってきたセラフィンの存在に気づく。
「この花園は何度参りましても美しゅうござりますね……。ほとんどの地が未だ冬に捕らわれている中、ここだけが一足早い春を知ることができるからにござりましょうか……?」
爽やかな笑みを浮かべながら、セラフィンがオーディガンの横に座る。
今日は隣にオーディガンがいるためか、尚更に花々が美しく見えていた。
そのせいか、いつもと同じような会話しかしていないのに、なんだかちょっぴり恥ずかしい。
その感情から逃れるようにして、オーディガンの尻尾にじゃれつく、セラフィン。
その拍子にバランスを崩してしまい、オーディガンを巻き込むようにして倒れ込む。
「だ、大丈夫か……?」
オーディガンの唇がキスをしそうなほど近づいた。
その瞬間、頭の中が真っ白になってしまい、セラフィンは何も考える事が出来なくなった。
花の香の中で感じるオーディガン様の体の重みと温かさ。
それが例えようもなく嬉しかった。
(「どうか、ずっと一緒の時間が続きますように……」)
そんな事を考えながら、ふたりは幸せな一時を過ごすのだった……。
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