● 春宵心地

 待ちに待ったランララ聖花祭。
 この日にデートの約束をしていた事もあり、ムーとエルは仲良く手を繋いで、星屑の丘を登っていた。
 ようやくお酒が飲めるようになったため、ふたりは数日ほど前から準備をして、バスケットの中にはエル特製ワイルドファイアのオレンジと、リキュールを香らせたチョコレートケーキ。
 白ワインに大好きな果物をつめこんで作ったサングリアブランカ、そして割れない様にしっかり包んだフルートグラスが入っている。
 星屑の丘はまさに恋人同士のための場所であった。
 夜の寒さから身を守るため、ムーが用意してきたブランケットを掛けてみたが、やはり少し肌寒い。
「こっちに来て」
 そこで何か思いついたのか、エルがムーの小柄な身体を抱き寄せ、まるで腕とコートに誂えたように、すっぽりと収める。
「なぁん」
 そのぬくもりがあまりにも嬉しかったため、ムーが零れるようにして呟き、エルが注いでくれたサングリアを受け取って軽く口を潤した。
 それからしばらくの間、ムーは背中で彼の温もりを感じながら、沈黙の中で幸せな時間を過ごしていく。
 エルから貰ったケーキを口の中に入れれば、今まで経験した事の無い大人の味が広がった。
 しかし、それは嫌な味では決してなく、素直に『美味しいなぁ〜ん』と笑顔になれる味。
 もしかすると、大好きな人と一緒にいるせいなのかも知れないが、心の底から幸せであると実感する事が出来た。
(「……エルも一緒に食べるかなぁん?」)
 そう思ってエルの顔を見た途端、ムーの考えが変わって口をつぐむ。
 エルは黙って夜空を見上げており、その瞳には沢山の星々が映っていた。
 その瞳があまりにも綺麗だったため、自然とムーの目線も星空へと向けられる。
 そして、ふたりで星空を見ながら、想う事はひとつ。
 来年は、きっと小さな家族になって、この場所に訪れている事だろう。
 だから、今年はまだまだ甘えたばかりの恋人で……。
 ……この時間を過ごしていたい。

イラスト:魚子