●うれしはずかしこの一瞬
ランララ聖花祭、当日。
ユイナは女神の木の下で、そわそわとして落ち着かない様子で、クラトスが来るのを待っていた。
脳裏に過ぎるのは、クラトスにかける言葉。
昨日のうちから何と言って渡そうか、あれこれと考えていたのだが、約束の時間が近づくにつれて、だんだん恥ずかしくなってしまい、頭の中が真っ白になった。
そのため、慌てた様子で台詞を考えている最中である。
「こ、このチョコレート、食べてくださいっ!」
「あ、あの、これ、どうぞ!」
「えーっと……、これっ!」
「あっ、あの……」
なかなか上手い言葉が見つからず、ユイナは顔を真っ赤にしながら悩む。
どうしよう、なんて言おう?
ユイナが悩んでいるうちに、やがて、彼女の姿を見つけたクラトスが、何事だろうかと首を傾げながら近づいてくる。
……目が合った。
その途端に、今まで考えていた台詞すらもぽぉんと吹っ飛ぶ。
ユイナは結局、何も言う事が出来ないまま、ただ真っ赤になって俯きながら、作ってきたお菓子の袋を突き出す事しかできない。
クラトスは、そんなユイナからのプレゼントを笑顔で受け取った。
(「うぅ〜……」)
あれだけ色々と考えていたのに、何も言わずに渡してしまった……。
そう肩を落としてしまうユイナだが、でも、そんな彼女の仕草だけでクラトスは全てを察し、ただ優しく笑顔を浮かべると、彼女の頭の上にぽんっと手を置き、よしよしと撫でてくれる。
(「や、やっぱり、恥ずかしい……」)
それを何とか誤魔化そうとするうちに、彼に分かって貰えた嬉しさが少しずつこみ上げてきて……いつしか、ユイナの顔が笑顔で満たされていく。
「それじゃ、一緒に食べましょうか」
「はい……!」
そのまま、クラトスに導かれるようにして、木陰に座るユイナ。
ユイナはクラトスにそっと寄り添いながら、恥ずかしそうにしつつも、用意してきたチョコレートを食べさせてあげようとする。
「……いただきます」
こんな風に、誰かに食べさせて貰うだなんて経験は無かったから、クラトスも最初は恥ずかしさと戸惑いで動きが止まってしまったけれど。でも、そんな彼女の気持ちを受け止めて、ぱくりとチョコレートを食べる。
「美味しいです。ありがとうございます」
口の中に広がる甘いチョコレート。それは次第に、ふたりの恥ずかしさや緊張を解してくれるような、そんな気がした。
空には、高く澄んだ青い空。
ユイナとクラトスは肩を並べてそれを見上げながら、いつまでもずっと、こんな時間が続けばいいのにと、そう願うのだった。
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