● 朝日のぬくもり

 夜が明ける前に家を出発し、アルジェンが幾多の試練を乗り越えて、さえずりの泉にやってきた。
 いつの間にか、すっかり夜が明けており、差し込む朝日の中で、小鳥達のさえずりを聞きながら、お菓子を食べてレフィの到着を待つアルジェン。
 それから、しばらくして、同じように試練を乗り越え、レフィがさえずりの泉にやってきた。
「お疲れ様。大変でしたね」
 此処まで着た労を労い、レフィを笑顔で迎えるアルジェン。
 レフィも其れに応えるようにして笑顔を返し、持参した包みを開けていく。
 そこに入っていたのは、手作りのお菓子。
 決して手を抜く事なく、すべてを注ぎ込んで作ったので、不味いという事はないが、アルジェンは気に入ってくれるだろうか?
 そんな気持ちが脳裏によぎり、ほんのちょっぴりだけ不安になった。
「……はい、アル君」
 その不安を振り払うようにして勇気を振り絞り、レフィがはにかんだ表情を浮かべてアルジェンに持参したお菓子を渡す。
 アルジェンはそのお菓子を受け取り、躊躇う事無く一口齧る。
 途端にお菓子の甘みが口の中に広がり、アルジェンは幸せな気持ちになった。
「凄く美味しい……。レフィさんありがとう……!」
 思わず感情が抑えきれなくなり、アルジェンがレフィに対して感謝の言葉を述べる。
「一人で食べるより二人で……それに、お茶もあるから」
 そのため、自分ひとりで食べるにはもったいないと感じてしまい、アルジェンがレフィにもお菓子を勧めた。
「……うん! それじゃ、さっそくお茶を淹れるね!」
 最初は遠慮がちだった彼女も、アルジェンの勢いに飲まれ、元気よく返事をして、持参したカップにハーブティを注ぐ。
 ハーブティーから漂う甘い香りがふたりを包み、自然と笑顔がこぼれていく。
「こうした時間を過ごせるのって本当に幸せだと思うよ」
 その言葉とともに一緒に冒険した時の出来事が脳裏に蘇っていった。
 例え、どんな辛い事があっても、乗り越えていく事が出来たのは、傍らに愛するヒトがいたおかげ。
 もしも、ひとりだったら、どうなっていたのだろうか、と思うだけで、例えようのない不安が過ぎる。
 それだけ自分達の中で相手の存在が大きくなっている事を再確認しつつ、ふたりはハーブティーの味を堪能した。
 そうしているうちにアルジェンがウトウトとし始め、ついに睡魔には勝つ事が出来ずレフィにもたれかかっていく。
 レフィはそのままアルジェンを膝の上に寝かせると、優しい笑顔で無防備なアルジェンの頬に手を這わせる。
 冬の終わりと春の到来を予感させる暖かな日光を浴び、レフィもだんだん眠くなってきたが、それでも空を見上げてお日様に感謝をした。
「アル君、大好きだよ?」
 無防備なアルジェンの頬にそっと口付けを落とし、レフィがはにかむ様に微笑んで彼の頬と髪を撫で続ける。
 その間もアルジェンはとても穏やかな表情を浮かべ、スヤスヤと寝息を立てていた。

イラスト:衣