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甘い幸せ
「……ここか」
ランララの試練を乗り越え、クロスがようやく星屑の丘に辿り着く。
約束の相手であるはずのシルヴィアは……、どこにもいない。
そう思った瞬間、背後で聞き覚えのある声が響く。
「だーれだ?」
後ろから飛びついて目隠ししてやろうと思い、勢いよく走ってきたものの、生まれもってのドジッ娘属性が発動し、バランスを崩して思いっきりずっこける。
「クロスさ〜〜はううっ、痛い〜っ」
大粒の涙を浮かべながら、シルヴィアが顔の辺りを必死で押さえた。
それと同時に床を磨くモップの気持ちを理解したが、そんな事が分かったところで何も嬉しくはない。
「シ、シルヴィア!? 大丈夫か?」
すぐさまシルヴィアに駆け寄り、クロスが心配した様子で顔を覗く。
そして、クロスはシルヴィアは何とか自分を落ち着かせるため、彼女が持ってきたバスケットからチョコレートをひとつ取り出し、躊躇う事なく口の中に放り込む。
だが、それはクロスのために用意していたウイスキーボンボン。
シルヴィアはかなり酒に弱いタイプだったので、少量の酒を飲んだだけでも酔っ払ってしまうほどの量。
「にゃは〜、いい気分。クロスさん、大好き〜♪」
途端にシルヴィアが上機嫌になり、楽しそうに鼻歌を歌って、ニコニコと笑い出す。
しかし、クロスは自分が食べさせたものが、まさかウイスキーボンボンだったとは気づいていないため、最初はシルヴィアが酔っ払っている事さえ気づいていない。
ただ、何となく楽しそうなシルヴィアの姿を見て、(「……ああ、いつものシルヴィアだ」)と思い、何事もなかった様子で笑みを浮かべて、シルヴィアの身体を抱き寄せる。
そして、ふたりはお菓子を食べて語り合い、幸せな時間を過ごすのだった。
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