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天使の休日
「わぁ……。お花、綺麗ね」
おっとりとした笑みを浮かべ、リレィシァがジンと一緒に朝露の花園を歩く。
「……んじゃ、休憩な」
しかし、一緒に歩いているジンの方は、しかめっ面でとても不機嫌な表情を浮かべている。
一緒に持っている大きなバスケットからは、チョコレートマフィンのいい香りが漂っており、横を歩いている彼女からも同じ匂いが漂っていた。
「んもう、せっかくのデートなのに……。私、なんかしたかなぁ……」
ジンの態度があまりにもぶっきらぼうだったため、リレィシァが何か怒らせるような事をしていないか、記憶の糸を辿っていく。
だが、まったく心当たりが無かったので、ジンがどうして機嫌が悪いのか分からない。
その間もジンは聞こえないフリをして、彼女の指先に巻かれた絆創膏に視線を落とす。
「……で? オマエ、コレつくんのに徹夜ってマジか?」
ふたりのお気に入りであるブランケットを広げ、ジンがふわりとした感触に幾分気持ちが和んで口を開く。
「……そ、そんなことは、どうでもいいことなのね」
明らかに動揺した素振りを見せ、リレィシァが顔を真っ赤にする。
どうやら、ジンに言われた事が図星だったらしく、きっぱりと反論する事が出来なかったようだ。
「そうっ、食べたくないのね、いいもん、私ひとりで食べちゃうんだから」
うっすらと涙を浮かべて口を尖らせ、リレィシァがジンからバスケットを死守する。
「……なんで怒ってるの? わかんないよ……。せっかく、楽しみにしてきたのに…」
その言葉を聞いてジンが困った様子を浮かべ、彼女が大切そうに持っていたバスケットに視線を移す。
「無茶すんな、ど阿呆。さっさと喰って帰るぞ」
一瞬の隙をついてチョコレートマフィンを掴み、ジンがニヤリと笑って大切そうに口まで運ぶ。
「あっ……。あ……マフィン……! お代りもあるよ」
最初はリレィシァも驚いていたが、ジンきが別に怒っているわけではない事が分かり、安堵した様子で小さく欠伸をする。
そのため、ジンは彼女からチョコレートマフィンを受け取り、そっと抱き寄せるようにして誘導し、彼女が眠りにつくまで優しく見守った。
(「やっと、眠ったな……」)
彼女の寝顔を眺めながら、ジンが『……ありがとう』と囁き、額に優しくキスをする。
そして、ふたりは沢山の花に埋もれ、甘い匂いに包まれ、穏やかな時間を過ごすのだった。
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