● 想いを伝えるキス、どこにするの?

「……はぐれるなよ」
 人ごみを掻き分けていきながら、エルが心配した様子でリーネに声をかける。
 そのため、リーネは『人の後ろをついていくのは得意ですものっ』と答え、エルの服の袖をぎゅっと掴む。
 それでも、何度かリーネは人ゴミに流されそうになり、ふらつきながら必死になってエルの後をついていく。
「でも、はぐれそうだから、こうしよう」
 さすがにこれでは人ごみに流されてしまうと思ったため、エルがゆっくりと右手を差し出した。
「うんっ♪ あったかいし……ね♪」
 納得した様子で頷きながら、リーネがエルの手を掴む。
「それにしても、凄いな」
 奉納されたお菓子の量と、沢山の人々を見て、エルが驚嘆する。
「まっ……、俺はもう貰ったけどね♪ 心のこもった贈り物……」
 女神ランララの木の前に立ち、エルがクスリと笑ってお祈りをし始めた。
(「でも、どうせお願いするのなら、リーネと一緒に過ごせる事……かな?」)
 そんな事を考えながら、エルが長いお祈りをする。
 そのうち、だんだん人気が無くなり、リーネの我慢が限界に達し、もじもじとした様子で、思い切ってエルに抱きついた。
「……ねー、エルぅ……聞いてー……? りーねねぇ……、エルのこと好きだよ……?」
 エルに甘えるようにしながら、リーネが自分の思いを口にする。
「リーネ……、俺も大好きだよ」
 その言葉を聞いてエルがクスリと笑い、ゆっくりと屈んで額に口付けをした。
「にゃっ……、りーねも、りーねもする〜っ……」
 頬を真っ赤にしながら、今にも泣きそうなくらい瞳を潤ませ、訴えるようにような表情を浮かべ、まっすぐエルを見つめ返す。
「ん、じゃあどこにしてくれる?」
 意地悪な笑みを浮かべ、エルがリーネに問いかける。
 そのため、リーネはエルの唇を人差し指で軽く触れ、『にゃ……、ここ……?』と答えを返す。
「そ、正解……♪ よくできました」  優しく包み込むようにして抱きしめ、エルがリーネと唇を重ね合わす。
 その途端にリーネが感極まって、瞳から一筋の涙をぽろりと流す。
 エルはその涙をすくうようにして拭い、リーネを見つめて微笑みかける。
 そして、ふたりは微笑み合い、幸せな時間を過ごすのだった。

イラスト:meg