● 幸せの一時

 ここは星屑の丘。空にはもう星が瞬いている。
 グリードとカノリは良い場所を見つけて、腰を下ろす。
「グリードさん、これを……」
 恥ずかしそうにカノリが差し出すのは、手作りの抹茶チョコレート。
「い、いいのか? じゃあ、さっそく……」
 カノリの許可を得て、グリードはもらったばかりのチョコレートを頂く。
「んっ! 美味いっ!! こんなに美味いとは、カノリは料理が上手いんだな」
「そ、そんなこと、ないです……」
 グリードの素直な言葉に、カノリは頬を染めながら笑顔を浮かべた。
「……あ、ありがとな」
「どういたしまして……」
 一つ一つ、味わうかのようにチョコを食べていくグリード。
 その隣でカノリはもじもじした様子で、口を開いた。
「あの、お話があるんです……」
 カノリの言葉にグリードは、びくりと僅かに肩を震わせた。
「好きな人がいるんです……」
「実は俺もだ」
 重苦しい空気の中、カノリは続ける。
「……昔の話になるのですが」
 そう前置きして、カノリは自分のことを告白する。
 昔の恋人が蒸発してしまって、辛かったことや悲しかった気持ちなどを伝えていく。
「それでお願いがあるんです……。今の好きな人に告白するのを応援してくれませんか?」
 そのカノリの言葉にグリードは、何か言いたそうにしていたが、それは言葉にならなかった。
 やっとグリードが出せた言葉は。
「俺じゃ……ダメかな?」
 そんな呟き。
「えっ……」
 思わずカノリは、自分の耳を疑った。そんな驚く様子に、グリードは慌てて。
「あ……はは……いや……三十路前の男が何言ってんだかな……忘れてくれ」
「いいえ、忘れません!」
 次に驚くのは、グリード。
「えっ!?」
「自分が恋し、告白しようとしていた人の言葉を、どうして忘れることが出来ますか?」
「お、俺でいいのか?」
 カノリは嬉しそうな顔でこくりと頷く。
「グリードさん、わたし、ずっとグリードさんのことが……」
 そして、二人の影が重なった。

 星明りの下、二人は結ばれた。
 少しぎこちない告白だったけれども、二人にとっては大切な想い出。
 恋人達の瞳には、夜空の星が祝福しているかのように映ったのであった。

イラスト:摩宮靄羅