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間違いだらけのランララ聖花祭
冒険者として同盟諸国で活動を開始してから、キャシーは一緒に旅をしてきた仲間達にある事からない事まで事細かに教わってきた。
そのため、ランララ聖花祭も『女性が男性にお菓子を配る催し』であると間違った知識を教えられ、その後きちんと教えてもらう機会もあったのだが、先に教わった方が簡単だったこともあり、自分なりのルールでそちらを優先したようである。
そんなこんなで迎えたランララ聖花祭。
キャシーは『たのしぃんだから、いいよねー?』というノリで、お菓子の入った小箱がたくさん詰まっている籠を持ち、多少なりとも見知った男性に配り(押し付けたとも言う)まくっていた。
その小箱にはこれみよがしに『ぎり』と書かれており、死神の鎌の如く男性陣の期待を切り捨てていく。
まるで辻斬りの如くロンリーウルフ達のピュアなハートを砕いていったが、キャシーにはまったく悪意がなかったので、そんな事など露知らず、とても満足である。
一方、その頃。
数多くの試練を乗り越え、アシャンティが女神の木までやってきた。
アシャンティは今年もロンリーウルフ確定。
とは言え、友人に恵まれ、充実した毎日を送っているので、とりたてて不満はない。
それならば、何故わざわざランララ聖花祭に参加したのか?
……答えは簡単。
祭りには参加するという主義だから……。
アシャンティは丘までの道のりでトレーニングをして、そのままロンリーウルフの叫び場に向かおうと考えていたらしい。
だが、その途中でキャシーに捕まり、別の男性陣と同じように小箱を渡された。
アシャンティは一瞬、何を渡されたのか分からなかったが、『ぎり』と書かれた札が目の前を過ぎったため、これが義理チョコの類であると理解する事が出来たようである。
もちろん、所詮は義理で子供相手に貰ったものなので、内心『こいつに貰っても……』という気持ちが過ぎり、手放しに喜ぶ事は出来なかったが、貰える物は何でも貰う主義なので、まんざらでもない様子。
「まっ、ありがとなぁ〜ん。それじゃ、気をつけて行けよ」
キャシーから受け取った小箱を手に持ち、アシャンティが彼女を見送って苦笑いを浮かべる。
彼女もそれに応えるようにして笑顔を返し、楽しそうに鼻歌を歌いながら、森の中へと姿を消した。
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