● また来年も

 うっすらと朝霧が立ち込める中、スタインとメイは、朝露の花園をゆっくりと歩いていた。
 朝露の花園には数多くの美しい花が咲き乱れ、自然とふたりの心を和ませてくれる。
 辺りではカップル達が愛を語り合っており、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
 今日がランララ聖花祭であるせいなのかも知れないが、幸せそうなカップルを見るたび、自分達まで幸福感に包まれていく。
 それだけ今日がいつもと違って、特別な日である事を実感させてくれた。
「この一年、何とか無事に過ごせたみたいですね」
 太陽が頭上に昇り始めた頃、スタインがメイの敷いたシートに座り、今までの出来事を思い返していた。
 今まで以上に信じられないような事があり、何度か死にそうな目にあったりもしたが、命を落とす事なく無事でいられた事態が、奇跡ではないかと思えてしまう。
 それだけ過酷な戦いを潜り抜けていたと言う実感もあるし、あの状況で生きて帰ってこれた事が、未だに信じられなかった。
「こうやって無事でいられたのも、みんなのおかげ……。それとも、ランララ様のおかげでしょうか? どちらにしても、いまこうやっている事を感謝しなければなりませんね」
 爽やかな笑みを浮かべながら、メイがサンドイッチをスタインに渡す。
 メイから受け取ったサンドイッチをパクつき、スタインがゆっくりと空を見上げる。
 それにつられてメイも、一緒になって空を見た。
 空には大きな鳥が飛んでいる。
 さすがに何の鳥かまでは分からなかったが、翼を開いて自由に大空を飛んでいる姿が印象的であった。
「それにしても……、平和ですね」
 自然とスタインが声を漏らす。
 未だにドラゴンの脅威から逃れる事が出来ず、地獄でもきな臭い動きがあるので、まだまだやるべき事が多いのだが、それでも女神ランララの木がある周辺は、平和そのものであった。
「このまま次も同じような時が過ごせるといいですね」
 祈るような表情を浮かべ、メイがゆっくりと口を開く。
 そして、スタイン達はのんびりと青空を眺め、その光景を心に焼きつけるのであった。

イラスト:むん。