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また来年も
うっすらと朝霧が立ち込める中、スタインとメイは、朝露の花園をゆっくりと歩いていた。
朝露の花園には数多くの美しい花が咲き乱れ、自然とふたりの心を和ませてくれる。
辺りではカップル達が愛を語り合っており、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
今日がランララ聖花祭であるせいなのかも知れないが、幸せそうなカップルを見るたび、自分達まで幸福感に包まれていく。
それだけ今日がいつもと違って、特別な日である事を実感させてくれた。
「この一年、何とか無事に過ごせたみたいですね」
太陽が頭上に昇り始めた頃、スタインがメイの敷いたシートに座り、今までの出来事を思い返していた。
今まで以上に信じられないような事があり、何度か死にそうな目にあったりもしたが、命を落とす事なく無事でいられた事態が、奇跡ではないかと思えてしまう。
それだけ過酷な戦いを潜り抜けていたと言う実感もあるし、あの状況で生きて帰ってこれた事が、未だに信じられなかった。
「こうやって無事でいられたのも、みんなのおかげ……。それとも、ランララ様のおかげでしょうか? どちらにしても、いまこうやっている事を感謝しなければなりませんね」
爽やかな笑みを浮かべながら、メイがサンドイッチをスタインに渡す。
メイから受け取ったサンドイッチをパクつき、スタインがゆっくりと空を見上げる。
それにつられてメイも、一緒になって空を見た。
空には大きな鳥が飛んでいる。
さすがに何の鳥かまでは分からなかったが、翼を開いて自由に大空を飛んでいる姿が印象的であった。
「それにしても……、平和ですね」
自然とスタインが声を漏らす。
未だにドラゴンの脅威から逃れる事が出来ず、地獄でもきな臭い動きがあるので、まだまだやるべき事が多いのだが、それでも女神ランララの木がある周辺は、平和そのものであった。
「このまま次も同じような時が過ごせるといいですね」
祈るような表情を浮かべ、メイがゆっくりと口を開く。
そして、スタイン達はのんびりと青空を眺め、その光景を心に焼きつけるのであった。
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