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良い思い出を作るのは、むしろこれから?
今年のランララ聖花祭も色々あった。
キスや抱擁、頬擦りといったスキンシップ……。
アイは不慣れな手作りチョコケーキに挑戦し、それをアストに贈ったりもした。
その途中でアストはうっかり弱点が脇である事をアイに知られ、さんざん突かれまくって悶絶した。
そんな風にふたりで祭りを楽しむ中、アイが衝撃的な一言を口にする。
「たまたまなのだが、今日は食事を作り過ぎてしまってな。……わ、わたしの部屋に食べに来ないか」
アストが胸をどきりっとさせた。
別に変な意味で言ったわけではないのかも知れないが、恋人の部屋に訪れると言う事だけでも一大事な事だ。
アストはぎこちない笑みを浮かべつつ、彼女の誘いを受けようとしたが、そこでアイが追い討ちをかけるようにして、さらなる一言を言い放つ。
「アストって……………………………………紳士、だよな?」
『紳士』と言う言葉が、アストの頭の中に響き渡る。
「信用しているぞ」
一瞬、真顔になったアイが一言。
まるでアストに釘をさすように……。
「全力で応えて見せます」
ようやく程々の冷静さを取り戻し、アストが力強く頷いた。
「そ、それでは帰ろうか……一緒に、な。まずいが私の手料理もある」
そっとアストに語りかけ、アイが恥ずかしそうに視線を逸らす。
最初はメインだったはずの料理……。
それがいつの間にか、何かのついでのような扱いに……。
もちろん、アストはまずいなんていうつもりは無い。
せっかく彼女が作った料理なのだから、まずいわけがないのだから……。
「さて、『紳士』のアスト、共に帰ろう」
会場の参加者達に別れを告げ、アイがアストに視線を送る。
「はいはい、紳士がんばります」
再び『紳士』という言葉が強調されたため、アストが苦笑いを浮かべて答えを返す。
そして、ふたりは仲良く手を取り合い、アイの部屋にむかうのだった。
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