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Marry me?
幾多もの試練を乗り越え、アイギールがさえずりの丘に辿り着くと、頬を染めたセラがバスケットを抱きしめ、彼女の事を待っていた。
「ひょっとして、待ったか?」
気さくに挨拶をして、アイギールが草の上に腰を下ろす。
「いや、全然……。ど、どうぞ、ですね」
緊張した面持ちで顔を真っ赤にしながら、セラが何処かぎこちない動作で、焼き菓子の入ったバスケットを差し出した。
アイギールはそのバスケットを受け取り、焼き菓子を食べつつ、セラに話しかけていく。
しかし、セラはずっと緊張した様子で、どこか落ち着きが無い。
その事を不思議に思いつつ、アイギールが焼き菓子を食べつくす。
「……ん?」
バスケットの底にあったのは、ふたつの小さな箱。
アイギールはその箱にとても興味を持ち、ゆっくりと中身を確認する。
その中に入っていたのは、銀色に輝く指輪。
「あの……あのね、アイギールさん」
言葉を詰まらせながらも、セラが懸命になって話す。
よほど緊張しているのか、身体が小刻みに震えているが、そのたび勇気を振り絞り、心の中に溜まった言葉を吐き出している。
「わたくし、アイギールさんのお嫁さんになりたいですの。お料理もお掃除も、一生懸命やります。冒険者としても、もちろん頑張ります。大好きなあなたと、ずっと一緒に……暮らしたいんですの」
思いの丈をアイギールにぶつけ、セラが胸を高鳴らせて返事を待つ。
しばらく沈黙が流れた後、アイギールがふっと微笑む。
「……あたしも、セラとずっと一緒に暮らしたいと思う。セラがあたしのお嫁さんになってくれたら、いや、セラをお嫁さんにしたい、そう思っているよ」
アイギールの言葉を聞いて、驚いたような表情を浮かべた後、セラが思わず涙ぐむ。
ずっと、その言葉を聞きたいと思っていたが、実際に本人の口から言われると、あまりの嬉しさに涙が止まらない。
アイギールは微笑みながら、セラの左手を取って、その薬指に指輪を嵌めた。
そこでセラはようやく安堵の微笑みを浮かべ、アイギールの左手薬指に、そっと指輪を嵌めて一礼する。
「ふつつか者ですが……よろしくお願いいたしますの」
そのため、アイギールは彼女の髪をそっと撫で、『ああ、こちらこそ、よろしくな』と答えを返し、再び優しく微笑みかけた。
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