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『どつきとプロポーズは突然に、』
時は夕暮れ。
肌寒い風が吹き始める頃。
ゼルとリズはランララ聖花祭の会場である『星屑の丘』で落ち合った。
しばらくの間、ふたりは木陰で休んでいたが、ゼルは何やらそわそわとしている様子。
この時、ゼルは『あるもの』をどのタイミングで渡すべきか、あれこれ考えて色々と迷っていた。
「何だか様子が変だけど、何かあったの?」
そのため、リズの問いかけにも口を濁し、『……ん? ああっ……。いや、特には……』と、あやふやな答えばかりを返している。
「特に何も無いってわけがないでしょ。今日のゼルは何かおかしい。ひょっとして、私に何か隠しているんじゃないの?」
リズはその態度がじれったく思えてしまい、何を隠しているのか問い詰めた。
「あっ、いや……。なんでもないんだ、本当に……。いや、何でもあるか。と、とにかく……、気にしないでくれ」
それでも、ゼルは言葉を濁して誤魔化し、リズの質問になかなか答えたようとしない。
「それじゃ、答えになっていない。もう、いい加減にしてよね」
遂に我慢の限界を超えてしまったリズは、怒りに身を任せてゼルをどつく。
その拍子にゼルは隠し持っていた『あのもの』を落とす。
……それは可愛らしい小さな小箱。
リズはその小箱に気づき、何かと思って拾い上げる。
「その小箱を……、受け取って欲しい」
ようやく覚悟を決めたのか、ゼルが迷わずリズの顔を見た。
リズはゼルの妙な反応に疑問を抱きつつ、小箱の蓋をぱかっと開ける。
その中に入っていたのは、ナデシコの花を模した紋様の彫られた、銀色のシルバーリング。
「俺の妻になって欲しい」
それと同時にゼルがリズにプロポーズした。
リズは『突然の出来事』に戸惑い、ゼルは『自分の言った言葉』に混乱する。
「……えっ? あ、あの……。そういう事だったのね。それなら、そうと言ってくれれば、私だって心の準備が出来たのに……。もちろん、OKよ。だって、断る理由がないもの」
何とか自分を落ち着かせ、リズがニコリと微笑んだ。
ゼルも最初は呆然としていたが、次第に落ち着きを取り戻し、ホッと胸を撫で下ろす。
そして、ふたりは暫しの会話の後、お互いの温もりを確かめるようにして抱き合い、愛を確かめ合うようにして甘い口付けを交わすのだった。
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