【結果】マウサツ襲撃 ストライダーの霊査士・サコン(a90176)

場所:マウサツの街・広場(警備万全)   2005年03月28日

●準備
 マウサツの街周辺では、野武士たちの襲撃に備えて主夫の盟友・クリストファー(a13856)や墓掘屋・オセ(a12670)たちが中心となって防壁作りの作業が続いていた。資材を運ぶ香水茅・シトラ(a07329)や白夜の射手・シギル(a90122)も忙しなく動いている。
 だが、護衛士たちによる迎撃作戦が不首尾に終わった場合、この地が最終決戦の地となる可能性もある。手を抜く訳には行かなかった。
 同時に、街の周辺で最終防衛用の罠を仕掛けている者たちもいた。
「まぁ、落ちて死ぬ事は無いでしょ」
「……くれぐれも味方は引っ掛けんようにな」
 ひたすら落し穴を掘り進めている日常の陰・レクト(a08256)に、同じく罠作りをしていた殺助か・キヨミツ(a12640)が忠告する。防衛の為の仕掛けの設置は着々と進んでいた。
 そして――別のとある場所でも、密やかに作業が続いていた。挑風・ダスト(a20053)や信ずる道を歩む泡沫神子・セイル(a11395)、そしてヒトの忍び・クランド(a00204)たちであった。この作業が何処まで有効なのかは、蓋を開けるまで定かでは無い。しかし、この仕掛けが有効に働けば――
 その日を迎えるまで、護衛士たちの作業は続いた。

●払暁
 夜が白み始めた山道を進む集団。列強グリモアを奪われ、誉ある家臣としての地位を失った野武士と呼ばれる者たちの一団である。物々しい武具に身を固めて『進軍』する元アルガ家臣たちの行く先は、かつては支配下にも収めていたマウサツの街であった。
 この襲撃でアルガ武士の威を示し、各地に散った同士たちを統合して、主家の再興を――口にこそしないが、野武士たちの胸の内には、そうした野心が満ち満ちていた。
 そんな野武士たちの動向を密やかに窺う者たちがいた。偵察部隊として、野武士たちの動向を探っていたマウサツ護衛士たちである。
「みんな、手筈通りに行くなぁ〜ん」
 夜陰の風花・シス(a14630)の号令の元、桜月玲瓏冴雲水・ウイング(a01562)や我流影殺法忍者・ショウシンザン(a05765)、変幻戦忍・シズク(a17134)たちが、敵部隊の規模や構成、進路などの情報を夜陰に紛れて収集する。幸いな事に、偵察部隊の活動は野武士たちに察知される事無く、順調に執り行われていた。
「別働隊はいないようですね……」
 主部隊から離れていく敵の存在を心配していた直撃の撲殺姫・カヤ(a13733)の危惧も杞憂に終わり、手筈通りに蒼き月光の守人・カルト(a11886)や永久の罪人・ケイル(a17056)が迎撃部隊本陣へと伝令に走る。
 偵察部隊からもたらされた情報を元に、今回の迎撃作戦に参加している他の護衛士たちの動きも活発になる。武装に身を固めた十数人の集団が、本隊と分かれて山林に向って進み始めたのはそれから間も無くの事であった。

●敗走
 野武士たちの軍勢は、峠の砦を避けるべく街道を逸れて間道へと足を踏み入れていた。マウサツの街まで後僅か。野武士たちは一気にマウサツの街に突入すべく先を急ぐ。が、前方に現われた者たちの姿に野武士たちの行き脚が止まる。マウサツの迎撃部隊だろう。
 だが、見ればその数は十数名ほどで、余り統制も取れていない様子。今の戦力ならば――
「蹴散らせ!」
 指揮官らしき男が野武士たちに短く命令する。いざとなれば、この者たちを血祭りに上げて今回の襲撃を終えても構わなかった。マウサツを襲撃して成果をあげる事が、この襲撃の目的であるのだから。
「ここから先は通すな!」
 仲間たちを鼓舞するように指示を送る希望の流星・ルディン(a14167)。召喚した『リングスラッシャ―』を付き従えて前線に向う。
 同時にドリアッドの舞踏家・エレナ(a06559)や永久ニ彷徨ウ夢追イ人・サテラ(a16612)、天翔ける星の煌き・レネ(a01876)たちが野武士たちの進撃を支えるべく前に出るが、敵の数に圧倒され、すぐに押され気味になってしまう。
 氷雪の御前・ルナール(a05781)や木苺息子・ラズリ(a11494)も赤誠の武道家・フェリディア(a16292)の援護射撃の下、増援に向うが劣勢を覆すには至らない。何より護衛士たちを驚かせたのは、野武士たちの使う『力』にあった。
「あれはディバインチャージなぁん!?」
 仲間たちの受けたダメージを回復させていた氷狩の粒・メロディ(a14800)が驚きの声を上げる。最前線に立つ野武士の打ち振るう太刀の形状は、『ディバインチャージ』の力が付与された物に間違い無い。更には、気高き銀狼を使う者までいる。アルガの野武士たちが同盟の冒険者と同じ力を振るう、その真の意味を護衛士たちは戦慄と共に痛感していた。
 この劣勢を打開する為に魂砕き・カナード(a19612)と遥碧の邪竜導士・シェンド(a09748)が『ニードルスピア』を、月凪の泡沫・メイノリア(a05919)と深淵の魔女・ファリナ(a05105)が『エンブレムシャワー』を野武士たちに放つが、なかなか効果的なダメージを与えられない。
「術士から狙い撃て!」
 指揮官の指示に応じて、逆に術士たちを狙っての牙狩人たちの射撃が襲い掛かる。その間断の無い攻撃に、半ば崩れ掛かけていた護衛士たちに畳み掛けるように野武士たちが迫ったその時――
「かかれ!」
 その掛け声と共に横撃を仕掛けて来た謎の伏兵に、野武士たちの追撃の勢いが止まる。しまった、待ち伏せか――野武士たちの表情にも動揺が走るが、それはすぐに侮蔑の色に取って代わった。
「土塊の下僕だと? 小賢しい!」
 そう吐き捨てて、白と黒・シンジュ(a13972)と銀糸の檻・グリツィーニエ(a14809)が呼び出していた『土塊の下僕』を野武士たちが一刀の元に破壊する。
「みんなっ、今のうちに!」
「撤退だ! 逃げろ!」
 すかさず仲間たちの回復に努めるらでぃかる悪なーす・ユイリン(a13853)に合わせて、ルディンが仲間たちに撤退を促す。その声に導かれるように撤退を始める護衛士たち。だが――
「逃がすな! 追撃しろ!」
 長槍を振るいながら野武士たちの指揮官が叫ぶ。『土塊の下僕』を使った姑息な手から見ても、マウサツの者たちの劣勢は明らか。久方ぶりの勝ち戦を取り零すつもりは無かった。野武士たちの苛烈な追撃が護衛士たちに向う。護衛士たちも数の劣勢を補うべく『リングスラッシャー』や『土塊の下僕』を召喚して応戦するが、追う者と追われる者の差は歴然であった。
「ここで止めろ! これ以上追ってこられるとまずいぞ!」
 総崩れになる仲間たちに向って颯颯の黒狐・チッペー(a02007)が指示を飛ばすが、護衛士たちの劣勢は覆せないかに見えた。
「このまま押し潰せ! その後は、マウサツの街だ!」
 勝ち誇ったような指揮官の声が谷間の間道に響き渡り、野武士たちの最後の攻勢が始まろうとしていた。

●反撃
 野武士たちの横合いから何者かが進出して来たのは、勢い付いた野武士たちが一気呵成に総攻撃を仕掛けようとした瞬間であった。野武士たちの脳裏に、先程マウサツの部隊を追い詰めかけた時に起こった出来事が思い浮かぶ。
 伏兵と見せかけて、取るに足らない『土塊の下僕』を向わせ、その隙に乗じて引くと言う姑息な奇策――
「はっ、同じ手が何度も……」
 せせら笑いながら向き直った野武士の身体に、数条の矢が突き立つ。がくりと膝を地に着きながら己の身体から生えた矢尻を見て、信じられないと言った表情を見せる野武士。
 だが、それで終わりではなかった。弓矢での射撃に続いて周囲の山林から走り寄って来る人影。断じて『土塊の下僕』ではない。
「伏兵だと!?」
 ようやく自分たちの置かれた状況に気付いて、野武士たちの顔が驚愕で歪む。そう。敗走していたかに見えた護衛士たちが所属していたのは、誘導部隊。先の護衛士たちの敗走は、野武士たちをこの地に誘い込む為の命懸けの擬態であったのだ。
 文字通り、矢継早に矢を乱射する闇貫きし黒き雹矢・ユウ(a15210)や歌って踊れる腹黒参謀・ヒメル(a15658)たち牙狩人の援護射撃の下、間道の右側面から『鎧進化』で防御を高めた黒き雷の衝撃・リィーリエ(a10908)や風来の冒険者・ルーク(a06668)、宿望の黒騎士・トール(a90101)らが一気に間合を詰めて斬り掛かる。そして、左側面から漆刃・カスラ(a13107)が剣を打ち振るい、侍魂・トト(a09356)が斬撃を放ち、傭兵上がり・ラスニード(a00008)の剣が野武士たちを薙ぎ払う。
 誘導部隊の者たちもここぞとばかりに攻勢に移り、野武士たちは一転、劣勢へと追いやられる。
「くっ、怯むなっ! 円陣になって迎え撃て!」
 だが、ストライダーである野武士たちの反応も素早かった。崩れ掛けた部隊の態勢を整えるべく指揮官の野武士が指示を飛ばす。その指示に従って、素早く展開を始める野武士たちであったが、突如として何人かの者が体勢を崩す。あるべき筈の地面が、野武士たちの足元にはなかった。
 いや、正確にはその周辺の地面に大きな段差があったのだ。明らかに人為的に掘り下げられた――
「気を付けろ! 罠があるぞっ!」 
 野武士の1人が発した忠告の声は遅きに失した。落し穴だけではなく、下草を結んだ罠などに掛かり、更に数人の野武士たちが大きく体勢を崩す。この隙を逃さじと特攻を仕掛けた放浪猫・ミン(a04357)や火の砂・エン(a00389)、大敵・タダシ(a06685)たちの果敢な攻撃に、野武士たちの陣形が一気に乱れる。
「希望のグリモアの加護で効きが悪いが――」
 敵陣形の崩壊に拍車を掛けたのは、日常からの逃亡者・カッセル(a16822)を始めとした徹夜明け紅茶王子・デュラシア(a09224)やひだまりにまどろむ箱入り狐・ネフィリム(a15256)、白翼・アルヴァ(a05665)たち紋章術士による『エンブレムシャワー』、そしての幻月の陽炎・クローディア(a01878)や宿無し導士・カイン(a07393)たち邪竜導士の放つ『ニードルスピア』の集中砲火であった。
 算を乱した野武士たちか態勢を立て直す暇を与える護衛士たちではなかった。更に椿を護る白銀の風・フェレク(a15683)や誓戦士・リオ(a15381)、二条の閃光と歌の姫君・フィアッセ(a16309)たちが苛烈な斬撃を放ちつつ、敵陣深くへと切り込む。
「……容赦はするつもりはねぇ、完膚なきまでにボコす……」
「同じく、向かってくる奴ぁぶっ潰すまでだ!」
 裂帛の気合と共に剣爛武闘な餓狼・ヴェリス(a16544)と紅虎・アキラ(a08684)が放った『紅蓮の咆哮』が野武士たちの動きを束縛する。直後、催命仙龍・レイ(a01775)と夜葬紅華・シロ(a10644)も攻撃に加わり、動きの止まった野武士たちを掃討して行く。前衛の者たちが取りこぼした敵兵は、月華の凶狐・ライハ(a11398)や龍と翼の後継者・ヒメ(a14600)たちの『ブラックフレイム』や『エンブレムシュート』が狙い撃つ。
 ヒトの吟遊詩人・エリエール(a90116)の『眠りの歌』で無力化される敵兵が多数いる所を見ると、どうやら冒険者である元アルガ家臣だけではなく、一般人である雑兵もこの襲撃に加わっていたらしかった。
 しかし、護衛士たちの攻撃を耐え抜いた野武士たちの抵抗は凄まじかった。打ち振るう刀槍が唸りをあげ、狙いすまされた矢が護衛士たちに少なからずのダメージを与える。新たに手に入れた力を振るう野武士たちは、まごう事無き強敵であった。
 緑珠の占花・ココ(a04062)や海底撈月・ビルフォード(a15191)たち医術士が回復に務めていなければ、深い傷を負った者もいただろう。が、1人、また1人と打ち倒され、数を減らして行く野武士たちに、最早挽回の芽は無かった。
 既にその数を半数以下に減らし、進退極まった野武士たちが取った最後の策は、兵力を集中させて一点突破を図る事だけであった。しかも、あろう事か野武士たちが目指した行く先は――
「……マウサツの街に目掛けて突貫せよ!」
 無数の傷を負っている指揮官の命令に野武士たちのみならず、マウサツの護衛士たちの表情も一変する。万が一にもこの戦線を突破されたならば、マウサツの街に被害が及ぶ可能性がある。
「……ボクたちを貫けると思い上がっているのなら、いつでもかかっておいで!」
 対峙した野武士を打ち倒しながら愛と情熱の獅子妃・メルティナ(a08360)が叫び、此処で雌雄を決する、その決意を秘めた眼差しで野武士たちを見据える。
「同じセイカグドに住まう者同士、戦いたくはありませんでしたが……皆様がそれをお望みなら、わたしは……」
 迫り来る野武士に門出の国の夜鶯鳥・マルティーナ(a13778)も杖を翳して身構える。
「俺より後ろに敵は行かせない……」
 強行突破を図ろうとしていた野武士の前に闇の獣性が心に巣くう・エンハンス(a08426)が立ち塞がり、続けて戦神の末裔・ゼン(a05345)と紫紺の剣王・ティーザ(a14734)たちも駆け付け、守りを固める。マウサツの街を守る為にも、此処を抜かせまじと他の護衛士たちの意識も大きく傾いたその時であった。
「今だ! 反転して退却せよ!」
 突然の指揮官の指示に、しかし、マウサツの街目掛けて特攻を仕掛けようとしていた野武士たちが一斉に身を翻す。マウサツの街に向うと言うのは、護衛士たちを欺く為の詭弁であったのだ。一瞬の間隙を突かれて、護衛士たちの反応が遅れたのは仕方のない事だろう。
 言うなれば、守るべき物を持つ者とそうでない者との差であった。
「ここを抜かせないだけじゃダメ。禍根を断たないとキリが無いわ。民が泣く!」
 薄くなった逆方向の囲みを突破して、一気に退却に移る野武士たちを見て森療術士・フィルレート(a09979)が皆に呼び掛ける。数を減らしたとは言え、まだ20名余りの野武士たちが健在であった。襲撃を退けたとは言え、このまま落ち延びさせれば、再びよからぬ事を企む事は目に見えていた。
 だが、護衛士たちの追撃を交わす為に野武士たちの取った最後の手段は、苛烈極まりない物であった。即ち、数名の精兵を捨て駒として残し、他の者たちを落ち延びさせる――しかも、指揮官自らが長槍を構えて。
 その野武士たちの最後の抵抗を退け、追撃に移った護衛士たちだが、初動の遅れが祟り結果として10数名の野武士を取り逃がす事となった。
 こうして護衛士たちによる迎撃作戦は、誰ひとり欠ける事無く完勝と言っていい結果を残した物の、一抹の不安を残したまま幕を閉じた。

●幕間
「皆さん、ご苦労さまでした」
 帰還した護衛士たちにストライダーの霊査士・サコン(a90176)が労いの声を掛ける。万が一の事態に備えて、マウサツの街で待機していた涙を忘れた現世の女神・マンジュ(a11930)や霧玄ノ月・シェルティ(a12731)、光を眺めて夢を見てー祈璃の・トゥルース(a08397)、そして、住民たちの避難を準備していた大あんこ熊王・ティータ(a13708)と気ままな銀の風の術士・ユーリア(a00185)、そしてマウサツ家臣団の者たちも安堵の表情で護衛士たちを迎える。
「これで取り敢えずはマウサツの危機は回避されたと言っていいでしょうね。後はトキタダ公を取り押さえるだけなのですが……」
 口元に扇を当てたまま暫く思案するサコン。何処か歯切れの悪い物言いである。
「どうかしたのかサコン?」
 護衛の任に就いていた黒葬華・フローライト(a10629)がサコンに鋭い視線を向ける。マウサツの街で待機している間にサコンが行っていた作業――
「……何か霊査で判ったのですか?」
 同じくサコンの護衛に就いていたストライダーの武道家・ターニャ(a05909)が問い掛ける。野武士たちの襲撃を退けた後、即座にトキタダ公追討の部隊を送る為の下準備として、サコンは魔の山で入手した物品を用いて霊査を行っていたのだ。
 自ずと護衛士たちの視線がサコンに集中する。その視線に答えるように扇を閉じるとサコンが口を開く。
「いないのですトキタダ公が。アルガの地にもマウサツの地にも――」
 そのサコンの言葉は、護衛士たちを驚かせるのに充分であった。トキタダ公がアルガ領にも、そしてマウサツの地にもいないと言う事は、つまり――
「では、追撃は!?」
「トキタダ公の行方が判らない以上、不可能です」
 護衛士の1人のあげた問い掛けに無念そうに答えるサコン。その思いはマウサツの護衛士たちも同じ事であった。

 手元まで手繰り寄せていた筈の糸が突如として断ち切られ、再び姿を消したトキタダ公。彼が何を思い、何処へと向ったのか――それを知る者は、今のマウサツにはいなかった。

【END】