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〜グドン地域、キマイラの塔にて〜

 グドン地域の只中にそびえ立つ、キマイラ塔。
 グドンの屍を基に築かれ、無数のキマイラによって守られたこの塔に、今、一人の青年が訪れた。

「確かに分かる……私の野望は、私の人生は、この為にこそ存在したのだ」

 感動の涙を流す無防備な青年を、しかしキマイラ達が攻撃する事は無かった。
 元は『盗賊』であったキマイラ達には、その人物が誰であるか、瞬時に理解できたのである。

「あのお方こそが、我らの『盗賊王』……」
「我らが主……」
「闇の盟主・バナザード様……!」

 さざなみの如く、主の為に道をあけるキマイラ達。
 静かにキマイラ塔へと歩みを進めるバナザードの頭上を、巨大な影が横切った。

 キマイラのひとりが「あれは、同盟の空中戦艦!」と声を上げる。
 円卓の決議により特攻をかけんとするドリル戦艦が、今まさに飛来し、キマイラ塔に突き刺さろうとしているのだ。
 俄かに慌て、迎撃を開始しようとするキマイラ達を、しかしバナザードは静かに押しとどめた。

「塔が傷つく事は無い。あの塔は『瘴気の森』アヴェスタ……地獄第78層に生息する植物の列強種族であり、全てのアンデッドの祖である地獄創生樹なのだから」

 次の瞬間、ドリル戦艦はキマイラ塔に激突した、と思われたのだが……。

「見よ、空飛ぶ船が『地獄』と化す」

 その言葉の通り、キマイラ塔……すなわち瘴気の森アヴェスタは、飛来したドリル戦艦を緩やかに受け止め……。またたくまに、戦艦を『地獄』と化したのである。
 その様を一瞥した後、変わらぬ歩調で、バナザードはアヴェスタへと足を踏み入れるのであった。